クレッシェンドな恋をもう一度
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千颯と再び約束を取り付けて、会えることになった当日。
なんの因果か、唐突にピンチヒッターでイベントの指導役になることになってしまい、
肝心の約束の時間にはどうしても間に合うことができなかった。
申し訳ないとメールで散々謝り倒しながら、慌てて待ち合わせ場所に向かう電車に飛び乗った。
快速ですら遅く感じてしまって、ついついイライラしてしまう。
普段ならほんの数十分のところが何時間にも感じてしまい、焦りをたくさん抱えつつ、
鉄砲玉のような勢いで改札まで駆け上がった。
「あっ……あれ?」
待ち合わせは駅の近くのカフェだったはずなのだが、改札を出たところに彼女の姿があった。
この前は仕事終わりだったようでかっちりとしたビジネススーツだったが、
今日はオフだからか、ふんわりとした印象のワンピース姿だ。
素直に可愛い、という感想が脳裏を駆け巡る。
だが、今はそれどころではない。一刻も早く彼女に声を掛けなければ。
「ごめん、遅くなって……!」
整わない呼吸のまま勢いよく頭を下げたせいで、肩からばさりと荷物がずり落ちた。
「ふふっ……お疲れ様です。」
相変わらず変なところ抜けてるねと笑いながら鞄を拾い上げ、楽しそうに早く行こうと俺の袖を引いてくる。
彼女も文句一つ言わないどころか楽しそうにはしゃぐところは変わらない。
きっと前の俺ならはしゃぎすぎだと制したかもしれないけれど、今は違う。
跳ねるように進んでいく彼女に歩調を合わせて歩き出した。
そうしてやってきたのは、最近リニューアルしたといろいろな雑誌で特集されている小さな遊園地の観覧車だった。
カラフルなゴンドラが、ゆったりとした速度で人々を運んでいる。
休日ということもあって、家族連れも多くいるが、すでに夕方から夜にかかってしまう時間だったので、
恋人同士で寄り添っている人たちも少なくない。
そういうのに限ってやたらと密着度の高いカップルばかりなので多少なり目のやり場に困る場面もいくつかあったが、背景の一部と思い込むことにする。
それよりも隣に立つ彼女が楽しそうにしているので、そちらを見ている方が落ち着きそうだ。
そうこうしているうちに、あっという間に俺たちの乗るゴンドラが降りてきた。
「意外とすぐ乗れて良かったね。」
足元お気をつけ下さいという、いまいちやる気のない案内係の声を背に、ゴンドラへと乗り込んだ。
こういう時、向き合って座るべきか、隣同士で座るべきかどちらが正解なのか分からずもたもたしていると、
さっさと座るよう係員から促されてしまったので結果的に彼女の隣に座ることになってしまった。
嫌がられていないだろうかとつい様子を窺ってしまうが、楽しそうに景色を眺めているので、
どうやら杞憂に終わったようだ。
「観覧車なんて久しぶりだよ~」
「俺も、子どもの時以来かもしれないな。」
「え?前の彼女……とか、は?」
「いないよ。ずっと碁ばっかりの生活だったし。」
「そ、そっか……。」
本心までは読み取れないが、どこか安心したような表情を彼女は浮かべた。
別れている間、他に付き合っていた人がいたのではと考えていたに違いない。
そんな姿を見て、無意識のうちに身体が動いて、彼女を腕の中に抱き寄せていた。
普段なら絶対こんなことはしないが、どうしてもこうせずにはいられなかった。
「しん……い、ちろ……さん?」
俺らしくない行動に不思議そうな眼差しを向けてくる彼女だけれど、
微かに頬を染めながらも嬉しそうにこちらに身を預けてきた。
思い返してみれば、こんなふうに抱きしめたことがあっただろうか。
「……ふふっ。心臓、めちゃくちゃどきどきしてる。」
「余裕なんか、持てるわけないだろ……」
ただでさえ、昔よりずっと可愛くなっている彼女とこんな至近距離にいるのだ。
思考回路がショートしたみたいに、気持ちと言葉と行動が上手くリンクしない。
それを完全に停止させたのは、千颯の放つまっすぐな視線だった。
微笑むでもなく、なにか言葉を紡ぐでもなく。
ただ、じっと見つめてくる。
否応なしにぶつかり合う視線。
そこにはもう、言葉は必要なかった。
抱きしめる腕に力を込めると、どちらからともなく唇を重ねた。
初めはただ触れるだけを繰り返し、互いに熱を帯びてくるのを感じて次第に深く甘くなる。
最後はまるで貪り合うように、ただただお互いを求め合った。
○●○
脳内が正常に働き始めたのは、もうすぐ駅が見えて来る頃だった。
頬を撫でる夜風が、すれ違いざまに告げていく。あと数分で彼女との時間は終わりだと。
ここから彼女の家と俺の家は逆方向だから、改札をくぐればまた日常が戻ってくる。
「……ん?どうした?」
数歩後ろを歩いていた彼女がふと、俯いたまま俺の上着の袖を引いてきた。
あの頃は気づけなかったそのサインに、今なら気づいてやれる。
「明日、仕事は?」
その問いに、彼女は黙って左右に振る。そして消えそうな声で、休みだと呟いた。
「じゃぁ……」
もう少しどこかに行こうかとは言ったものの、この時間から行かれるところなど限られている。
お互いに考えつく先は口に出さずとも同じで、彼女は一瞬だけはっとしたように目を見開いた。
俺の方もさすがに今日の今日はどうかと躊躇する。
だが、こういう事は勢いが大事ともいう。
彼女が首を横に振りさえすれば、冗談だと笑い飛ばして誤魔化そう。
いい加減大人なのだから、笑い飛ばすこともできるだろう。
行くか否かを問いに彼女はゆっくりと頷いた。
なんの因果か、唐突にピンチヒッターでイベントの指導役になることになってしまい、
肝心の約束の時間にはどうしても間に合うことができなかった。
申し訳ないとメールで散々謝り倒しながら、慌てて待ち合わせ場所に向かう電車に飛び乗った。
快速ですら遅く感じてしまって、ついついイライラしてしまう。
普段ならほんの数十分のところが何時間にも感じてしまい、焦りをたくさん抱えつつ、
鉄砲玉のような勢いで改札まで駆け上がった。
「あっ……あれ?」
待ち合わせは駅の近くのカフェだったはずなのだが、改札を出たところに彼女の姿があった。
この前は仕事終わりだったようでかっちりとしたビジネススーツだったが、
今日はオフだからか、ふんわりとした印象のワンピース姿だ。
素直に可愛い、という感想が脳裏を駆け巡る。
だが、今はそれどころではない。一刻も早く彼女に声を掛けなければ。
「ごめん、遅くなって……!」
整わない呼吸のまま勢いよく頭を下げたせいで、肩からばさりと荷物がずり落ちた。
「ふふっ……お疲れ様です。」
相変わらず変なところ抜けてるねと笑いながら鞄を拾い上げ、楽しそうに早く行こうと俺の袖を引いてくる。
彼女も文句一つ言わないどころか楽しそうにはしゃぐところは変わらない。
きっと前の俺ならはしゃぎすぎだと制したかもしれないけれど、今は違う。
跳ねるように進んでいく彼女に歩調を合わせて歩き出した。
そうしてやってきたのは、最近リニューアルしたといろいろな雑誌で特集されている小さな遊園地の観覧車だった。
カラフルなゴンドラが、ゆったりとした速度で人々を運んでいる。
休日ということもあって、家族連れも多くいるが、すでに夕方から夜にかかってしまう時間だったので、
恋人同士で寄り添っている人たちも少なくない。
そういうのに限ってやたらと密着度の高いカップルばかりなので多少なり目のやり場に困る場面もいくつかあったが、背景の一部と思い込むことにする。
それよりも隣に立つ彼女が楽しそうにしているので、そちらを見ている方が落ち着きそうだ。
そうこうしているうちに、あっという間に俺たちの乗るゴンドラが降りてきた。
「意外とすぐ乗れて良かったね。」
足元お気をつけ下さいという、いまいちやる気のない案内係の声を背に、ゴンドラへと乗り込んだ。
こういう時、向き合って座るべきか、隣同士で座るべきかどちらが正解なのか分からずもたもたしていると、
さっさと座るよう係員から促されてしまったので結果的に彼女の隣に座ることになってしまった。
嫌がられていないだろうかとつい様子を窺ってしまうが、楽しそうに景色を眺めているので、
どうやら杞憂に終わったようだ。
「観覧車なんて久しぶりだよ~」
「俺も、子どもの時以来かもしれないな。」
「え?前の彼女……とか、は?」
「いないよ。ずっと碁ばっかりの生活だったし。」
「そ、そっか……。」
本心までは読み取れないが、どこか安心したような表情を彼女は浮かべた。
別れている間、他に付き合っていた人がいたのではと考えていたに違いない。
そんな姿を見て、無意識のうちに身体が動いて、彼女を腕の中に抱き寄せていた。
普段なら絶対こんなことはしないが、どうしてもこうせずにはいられなかった。
「しん……い、ちろ……さん?」
俺らしくない行動に不思議そうな眼差しを向けてくる彼女だけれど、
微かに頬を染めながらも嬉しそうにこちらに身を預けてきた。
思い返してみれば、こんなふうに抱きしめたことがあっただろうか。
「……ふふっ。心臓、めちゃくちゃどきどきしてる。」
「余裕なんか、持てるわけないだろ……」
ただでさえ、昔よりずっと可愛くなっている彼女とこんな至近距離にいるのだ。
思考回路がショートしたみたいに、気持ちと言葉と行動が上手くリンクしない。
それを完全に停止させたのは、千颯の放つまっすぐな視線だった。
微笑むでもなく、なにか言葉を紡ぐでもなく。
ただ、じっと見つめてくる。
否応なしにぶつかり合う視線。
そこにはもう、言葉は必要なかった。
抱きしめる腕に力を込めると、どちらからともなく唇を重ねた。
初めはただ触れるだけを繰り返し、互いに熱を帯びてくるのを感じて次第に深く甘くなる。
最後はまるで貪り合うように、ただただお互いを求め合った。
○●○
脳内が正常に働き始めたのは、もうすぐ駅が見えて来る頃だった。
頬を撫でる夜風が、すれ違いざまに告げていく。あと数分で彼女との時間は終わりだと。
ここから彼女の家と俺の家は逆方向だから、改札をくぐればまた日常が戻ってくる。
「……ん?どうした?」
数歩後ろを歩いていた彼女がふと、俯いたまま俺の上着の袖を引いてきた。
あの頃は気づけなかったそのサインに、今なら気づいてやれる。
「明日、仕事は?」
その問いに、彼女は黙って左右に振る。そして消えそうな声で、休みだと呟いた。
「じゃぁ……」
もう少しどこかに行こうかとは言ったものの、この時間から行かれるところなど限られている。
お互いに考えつく先は口に出さずとも同じで、彼女は一瞬だけはっとしたように目を見開いた。
俺の方もさすがに今日の今日はどうかと躊躇する。
だが、こういう事は勢いが大事ともいう。
彼女が首を横に振りさえすれば、冗談だと笑い飛ばして誤魔化そう。
いい加減大人なのだから、笑い飛ばすこともできるだろう。
行くか否かを問いに彼女はゆっくりと頷いた。