スタマイ編
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ーあぁ、もう有り得ない。
何度そうため息をついたところで状況は何も変わらないのだけれど。
目の前に積みあがる何冊もの本を眺めて、カナメは絶望にも似た声が漏れた。
課題の提出まであと二日。
本来ならばもうすでに片付いていて、今日は念願の千颯とのデートのはずだった。
それなのに、父である山崎慎一郎に無理矢理仕事の一端を担わされて、当初の予定が狂ってしまい、結果として大学へ提出する課題に割く時間が大幅に削られてしまったのだ。
そのせいで、彼女との約束は延期に。
もちろん隠して会うことも出来たが、それを彼女はきっと許してくれないだろう。
後ろめたさを抱えたまま会うのも、それはそれで自分が納得できない。
(あれ、ここの文献って……?)
ふと山積みの本に伸ばしたはずの手は、なぜか自己主張をしていたスマホに伸びていた。
マナーモードにしているから、部屋にはバイブ音だけが響いている。
これは誰かからの着信だ。
父からだとしたら完全に無視するところだけれど。
電話の向こうにいるその人を確認すると、カナメは急いで通話をタップした。
「もしもし?」
『カナメくん?ごめんね、忙しいところに……』
「大丈夫。今ちょっと行き詰ってたところだから。それよりどうしたの?」
電話口の彼女は、それなりの用事があるから電話をかけてきたのだろうに、なぜか言い淀んでいる。
何か言いにくいことでもあるのだろうか。
しばらく二人の間に沈黙が流れる。
それからようやく彼女が口を開いた。
『……用事は……ない、です……』
「え?どういうこと?」
もごもごと言葉にならない声をいくつか呟いてから、彼女はごめんやっぱり切るねと言い出した。
「ちょっと待って。答えになってないよ」
慌てて制すると、再びでもとだってを繰り返して、ようやく彼女は観念した。
『……カナメくんの……声、聞きたいなって……思って……』
予想外の返答に、思わずカナメはつい噴き出して笑ってしまった。
いつもは自分の方が歳上だからと絶対に弱音を吐かない彼女が、まさか。
「千颯さんからそんなセリフが聞けるなんて驚いた」
『ごめん!忘れて!もう切るから!』
「だめ。オレだってアンタの声聞きたい」
わざと言葉を強めて、通話を切らせないようにする。
押しに弱い彼女のことだから、きっと効果は抜群のはずだ。
「今日は会えなくて……ごめん」
『仕方ないよ、課題あるんでしょ?』
「課題もあるけど……今日は全部あの人のせい」
『もう、そんな言い方しないの。山崎さんとも仲良くね』
「どうかな。今日のことはしばらく根に持つよ」
『ほどほどにね』
歩み寄る気がないわけではないが、承服しかねる部分もまだ多い。
まだあの人とは時間がかかりそうだ。
そう口にすると、彼女はくすりと笑った。
時間はたっぷりあるから大丈夫だよ、と。
『……じゃぁ、そろそろ本当に切るね』
「なんで?」
『これ以上課題の邪魔したら、また会える日が遠くなっちゃうもの』
そう言われてしまっては、これ以上は何も言えない。
あとはもう、さっさと目の前の問題を片付けてしまうほかない。
「……わかった。明日には終わらせるから。そしたら会える?」
『夜なら大丈夫。わたしも定時で上がるから!』
「期待してる」
名残惜しくも、通話終了をタップして、ふっと息を吐く。
先ほどまで行き詰っていた論文が、今ならすんなり書けそうな気がする。
スリープモードになってしまったパソコンをもう一度立ち上げて、キーボードに手を走らせた。
ー今はただ、貴方に会いたいから。
何度そうため息をついたところで状況は何も変わらないのだけれど。
目の前に積みあがる何冊もの本を眺めて、カナメは絶望にも似た声が漏れた。
課題の提出まであと二日。
本来ならばもうすでに片付いていて、今日は念願の千颯とのデートのはずだった。
それなのに、父である山崎慎一郎に無理矢理仕事の一端を担わされて、当初の予定が狂ってしまい、結果として大学へ提出する課題に割く時間が大幅に削られてしまったのだ。
そのせいで、彼女との約束は延期に。
もちろん隠して会うことも出来たが、それを彼女はきっと許してくれないだろう。
後ろめたさを抱えたまま会うのも、それはそれで自分が納得できない。
(あれ、ここの文献って……?)
ふと山積みの本に伸ばしたはずの手は、なぜか自己主張をしていたスマホに伸びていた。
マナーモードにしているから、部屋にはバイブ音だけが響いている。
これは誰かからの着信だ。
父からだとしたら完全に無視するところだけれど。
電話の向こうにいるその人を確認すると、カナメは急いで通話をタップした。
「もしもし?」
『カナメくん?ごめんね、忙しいところに……』
「大丈夫。今ちょっと行き詰ってたところだから。それよりどうしたの?」
電話口の彼女は、それなりの用事があるから電話をかけてきたのだろうに、なぜか言い淀んでいる。
何か言いにくいことでもあるのだろうか。
しばらく二人の間に沈黙が流れる。
それからようやく彼女が口を開いた。
『……用事は……ない、です……』
「え?どういうこと?」
もごもごと言葉にならない声をいくつか呟いてから、彼女はごめんやっぱり切るねと言い出した。
「ちょっと待って。答えになってないよ」
慌てて制すると、再びでもとだってを繰り返して、ようやく彼女は観念した。
『……カナメくんの……声、聞きたいなって……思って……』
予想外の返答に、思わずカナメはつい噴き出して笑ってしまった。
いつもは自分の方が歳上だからと絶対に弱音を吐かない彼女が、まさか。
「千颯さんからそんなセリフが聞けるなんて驚いた」
『ごめん!忘れて!もう切るから!』
「だめ。オレだってアンタの声聞きたい」
わざと言葉を強めて、通話を切らせないようにする。
押しに弱い彼女のことだから、きっと効果は抜群のはずだ。
「今日は会えなくて……ごめん」
『仕方ないよ、課題あるんでしょ?』
「課題もあるけど……今日は全部あの人のせい」
『もう、そんな言い方しないの。山崎さんとも仲良くね』
「どうかな。今日のことはしばらく根に持つよ」
『ほどほどにね』
歩み寄る気がないわけではないが、承服しかねる部分もまだ多い。
まだあの人とは時間がかかりそうだ。
そう口にすると、彼女はくすりと笑った。
時間はたっぷりあるから大丈夫だよ、と。
『……じゃぁ、そろそろ本当に切るね』
「なんで?」
『これ以上課題の邪魔したら、また会える日が遠くなっちゃうもの』
そう言われてしまっては、これ以上は何も言えない。
あとはもう、さっさと目の前の問題を片付けてしまうほかない。
「……わかった。明日には終わらせるから。そしたら会える?」
『夜なら大丈夫。わたしも定時で上がるから!』
「期待してる」
名残惜しくも、通話終了をタップして、ふっと息を吐く。
先ほどまで行き詰っていた論文が、今ならすんなり書けそうな気がする。
スリープモードになってしまったパソコンをもう一度立ち上げて、キーボードに手を走らせた。
ー今はただ、貴方に会いたいから。