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原神

最後のグラスを棚にしまって、ひと息つく。
今日でバーテンダーの体験も終わりだ。
ルカさんにやってみないか?と声を掛けられたときはどうなることかと思ったけれど、飲みにきてくれた仲間たちからの評判も上々ということもあって、最終的にはルカさんから今後も店を手伝ってくれないかとさえ言ってもらえた。
もう店には誰もいないし、報酬代わりに好きなものを飲んでいいとのことだったので、自分のためだけに煙霞繁葉を作って一口飲み込んだ、ちょうどその時だった。

「相棒!俺にも一杯!」

ばたばたとなだれ込んできたのは、肩で息をしたタルタリヤだった。

「残念だけどお店はもう……」
「そこをなんとか……!璃月から飛んできたんだよ〜」

任務の途中でばったり会った鍾離に聞いたらしい。
旅人がモンドで美味い飲み物を出す店をやっている、と。
最初は半信半疑だったタルタリヤも、鍾離があまりにも自慢げに話すので、その目で確かめようと思ったのだが、なんの因果かファデュイの部下たちの手違いで何やら雑務処理をやらなければならなくなってしまい、結局今になってようやく駆けつけることができたのだそうだ。

「……仕方ないね」

そうまでして来てくれたのに追い返すのもなんだか酷な気がした。
璃月で世話になった恩もある。
大きなため息をひとつついてから、何が飲みたいの?と尋ねた。

「作ってくれるのかい?」
「……今日は特別ね」
「それはありがたい」

さっき棚にしまったグラスを取り出して、彼のオーダーを待つ。
数々の注文に応えてきたとはいえ、まだまだ素人だ。
あまり難しくないものだといいのだけれど。
などと考えていたのが見透かされたのか、タルタリヤはにっこり笑って、キミと同じものを頼むよと言ってきた。

「え……?これでいいの?」

彼女が飲んでいる煙霞繁葉は最初に覚えたメニューで、何よりも簡単だ。
そんなものでいいなんて、何か裏があるのではと勘繰ってしまう。

「それがいいんだよ。相棒と同じってのが、さ」

それに店はもう終わっているのだから、きっと片づけも粗方終わっていることだろう。
だからあれこれ材料を使うようなものは飲んでいないはず。
彼はなるべく負担にならないものを選んでくれたのだ。

「まぁ……貴方がそう言うなら……」

手順通りに茶葉を入れて、かき混ぜる。
美味しいと思ってもらえますように、と少しだけ願いも込めて。

「どうぞ」
「いただきます」

一口飲み込んで、これは想像以上だとタルタリヤは表情を綻ばせた。
彼の場合リップサービスとも考えたけれど、その反応を見る限りそうではないらしい。

「美味しいよ、相棒」
「……どうも」
「これなら毎日でも飲みたいくらいだ」
「それは言い過ぎだよ」

きっと急いで来て喉が乾いているからなんでも美味しく感じるだけ。
なんてつい可愛げのないことを口にしてしまった。
でも、本当はすごく嬉しかった。
店をやっている時も、できることなら彼にも来てほしいと思っていたから。

「相棒、ちょっとこっち来て」

その言葉通り、カウンターから出て彼の隣に立つ。
すると徐ろに腰を抱き寄せられて、距離が近くなったと思えば、お互いの唇が重なった。
突然のことに驚いて一瞬身をよじったけれど、案外強い力で制されて、そしてほんのり茶葉の香りが残る甘いその行為に酔ってしまった。
おかしいな、アルコールなんて入っていないのに。

「ごちそうさま」
「……それは、どっちの意味で?」
「もちろん、両方だよ」

悪びれる様子は微塵もなさそうで、つい笑ってしまった。
本当に、この人には敵わない。

「……来てくれて、ありがとう」

お互いの立場故にそう簡単に触れうことはできないけれど、ほんの僅かに何か繋がっているものがあるような気がして、心の奥がじんわりあたたかくなった。
だから今度は、自分から。
彼の額に、ふわりと触れるだけのキスを落とした。
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