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原神

数回ノックをしてからドアを開けると、ちょうど彼はベッドに腰かけて読み物をしているところだった。
外に出る時はかけることのないメガネをして、臙脂色のシャツは襟元がいつも以上にオープンになっている。

「タルタリヤ、宿屋のおばさんがホットミルクをもらったの。今夜は冷えるから、しっかりあったまっておきなさいって」
「お、それは助かるね。ありがとう」

手に持っていた書物を枕元に置き、手招くように自身の隣をぽんぽんと叩いた。
それに従って彼の横に腰を下ろし、サイドテーブルにほこほこと湯気の立つマグカップを置いた。
無言の時間が流れるけれど、それは決して苦になるものではない。
そっと彼の肩に頭を預ければ、当然のようにその頭を撫でられる。
そしておもむろに視線が交われば、どちらからともなく唇を重ねた。

「今日は随分と可愛いことをしてくれるんだね、相棒」
「別に……ちょっとそんな気分だっただけ」
「急凍樹に負けたから?」
「……うるさい」

痛いところを突かれたのが悔しくてふいっと明後日の方を向くと、タルタリヤはごめんごめんと反省の色ひとつない謝罪を笑みに乗せ、もう一度キスを落としてきた。
傍から見れば私たちの行為は恋人同士なのかもしれない。
けれども私が彼を愛することは絶対にないし、彼が私を愛することも絶対にない。
だって私はこの旅で兄を見つけて元の世界に帰らなければならない。
彼もまた、いずれは自分の国に帰らなければならない。
こんなに不毛な恋人ごっこをすることになるなんて、この世界に来た頃の私には想像も出来なかっただろう。


「そんなこと言うならもう二度と手合わせはしない」
「それは困ったな。どうしたら許してもらえるんだい?」

言わなくてもきっと彼はわかっている。
それなのにわざと言葉にさせようとするのだから、この公子様は本当に意地が悪い。
その蒼き瞳で何人の女性をたぶらかしてきたのだろう。
反抗してじっと黙っていれば、ほら。

「これで許してくれるかい?」

いつも以上に優しい手つきで私の身体を抱き寄せる。
そして唇から首筋、胸元に向かってキスの嵐が降って来る。
零れそうになる涙を必死に隠して、彼の行為に身を任せた。


―ねぇ、タルタリヤ。
いつか貴方に愛してるって言いたいよ。
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