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オルヴォワールも言えぬまま

その日は随分と寒い日だった。
布団から出るのが本当に辛くて、陽が高くなるまでずっとくるまっていた。
今日は仕事が休みで本当に良かった。
のそのそと布団をめくって、ひやりと冷たい床に足をつく。
枕元に置いていたカーディガンに袖を通しながらリビングに向かい、欠伸をしながら電気ポットに水を入れてスイッチオン。
暖房をつけて、一番陽の当たるところに腰を降ろした。
ため息をついて、天井を見上げる。
わたしはあれから間もなくして、ヒカルと生活していた家を出た。
幸いにも、あの手違いを起こした大家さんがいい物件を格安で紹介してくれたので、そう時間をおくことなく引っ越しすることが出来た。
決して広くはないけれど、一人で生活するなら不便は感じない。
すっかり温まった電気ポットからインスタントのカフェオレを作って、一口含む。
最初の日を思い出して、随分昔のことみたいだなと苦笑いがこぼれた。
あれからヒカルとは全く連絡を取っていない。
電話もメールも、なにひとつ。

「さよならくらいは……言えばよかったかな……」

枯れたと思った涙がまた、一筋頬を伝った。

「……ヒカル……ほんとは、ね……」

もうこの気持ちが届くことはない。
心に刺さった棘をこの先ずっと持っていくことが、わたしに与えられた罰だから。
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