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オルヴォワールも言えぬまま

大学生になって半年が経った頃。
わたしはようやく家を出た。
実家から学校まで決して通えない距離ではなかったけれど、やっぱり一限がある日はサラリーマンよりも早起きしないといけなかったし、サークルで帰りが遅くなる日は日付を超えてしまう時もあった。そんな理由もあって、初めは断固反対していた両親を必死の思いで説得して、絶対に学業を優先するからという約束の元に一人暮らしを始めるに至った。

「今日からここが……わたしだけの家、かぁ……」

大家さんから受け取った鍵を、ドアノブに挿す。
がちゃんとやや重たげな音を立てて回転した。
緊張気味にドアを開ける。
築年数はそれなりだったけれど、リノベーションしているはずだから見た目は新築。
元々備え付けの家具が少し置いてあるだけの殺風景が視界に飛び込んでくるはずだった。
「……え?」
「だ、だれ……?」

そこには、すでに生活感のあるソファやテレビ、片隅には脱ぎ捨てられた上着が転がっていて。
目の前には、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした男の子が立っていた。

それが、わたしたちのはじまり。
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