ウソつきシンデレラ
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「はい、玲ちゃん。これが捜査資料」
昨夜の大雨から一転して青空が広がる昼下がり。
駅近くのカフェでアフタヌーンティーを楽しむ傍ら、半ば徹夜で仕上げたレポートを差し出す。
「いつもありがと。でも千颯、毎回よくこんなに調べられるね」
ぱらぱらと調書をめくりながら、玲は怪訝そうな顔をする。
「まぁ、その辺は企業秘密ということで」
多くは語らないまま、アップルパイを頬張った。
私はあの事件が落ち着き次第、関東厚生局麻薬取締部、通称マトリの手伝いをしている。
玲の下で働く情報収集役。
いわゆるSという役目だ。
「その後、お兄さんの様子はどう?」
「相変わらずというか、まだ病院」
逮捕されてからしばらくして、兄には執行猶予付きの有罪判決が下った。
本人も納得しているし、十分反省の余地もあるとの判決だ。
だが、私たち家族が思っていたよりもずっと中毒症状が重く、今もまだ警察の管理下にある病院で治療を受けている。
警察の判断で、家族ですら面会もままならない状態なので、よほどの状態なのだろう。
「でも、病院の先生からは、お兄ちゃん頑張ってますって聞いてるから。今は信じるしかないんだ」
「そうだね。少しでも早く会えるといいね」
「ありがと」
事件の前から近所に住んでいたということもあって仲良くしてくれていたけれど、あの一件の後もずっと玲は親身になってくれている。
兄のような人をこれ以上出したくないという気持ちも嘘ではないけれど、今度は私が彼女の力になりたい、力になれることがあるならと思って、自分からSになることを申し出た。
もちろん最初は反対されて、まったく取り合ってすらくれなかった。
でも、何度も何度も頭を下げて、結局は根負けして折れてくれた。
まぁ、その後も彼女の上司である関さんに認めてもらうまでもひと悶着あったのだけれど、いろいろと約束することを条件になんとか認めてもらって、今のポジションに落ち着くことができた。
「あ、もうこんな時間!」
ちらりとスマホの時計を確認してみると、もうすっかり夕方の四時を回っていた。
そろそろ夕食の買い物をして帰らないと。そう告げると、例は嬉しそうに目を細めた。
「千颯、関さんとはうまくやってるんだ?」
「もうっ、揶揄わないでよ!」
慌ただしく荷物をまとめて、自分の分のお金をテーブルに置き、早々に店を後にする。
今晩の献立を頭に思い描いて、駅まで早足で向かった。
* * *
鍋に火をかけて、あとは煮込むだけ。
ふぅっとひと息ついたところで、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「よかった、今日はちゃんと家にいるな」
心底安堵した、関さんの声。それが耳朶をくすぐると、私も安心する。
「おかえりなさい、大輔さん」
「ただいま」
言葉とともに、ほんの少し触れるだけのキスを交わす。
いつの頃からか当たり前になった、私たちの習慣。
「もうすぐできるので、着替えてきてください」
「ん、わかった」
おまけにもう一つ、というように彼は額に唇を落としてから、キッチンを出ていく。
頬が少し熱くなってしまって、慌てて手で仰いで冷まそうと試みた。
大輔さんとは、あの事件で面識を持った。
私の危機を間一髪のところで救ってくれた彼。
事件が落ち着いてからも、しばらくは危ないかもしれないからと警護も兼ねてマンションの隣に住んでくれた。
最初のうちは、玲の方がいいと言っていたけど、別の事件に掛かりきりでまともに帰れそうにないということで、その話はなくなってしまったのだ。
もちろん大輔さんも多忙な人だったけれど、私がいるからとなるべく帰れるときは早く帰るようにしてくれて、その感謝やお礼にと食事を一緒に摂るようになった。
そうこうしているうちに、なんとなく情が湧いてしまったというか、お互いに離れ難くなって、最終的には付き合うという形で落ち着いた。
その頃から呼び方を関さん、から大輔さん、に変えた。
なかなかの硬派に見えた大輔が、あそこまでスキンシップを求めてくる人だとは少し意外だったけれど、私も幸せだからまぁいいかと深く考えることはやめた。
二人で食卓を囲んで、食後にはソファに並んで笑い合って、最後には一緒のベッドに入って手を繋いだまま眠る。
そんな幸せがあるから、私は心を強く持っていられるだろう。
大丈夫、まだ、やれる。
...to next.
昨夜の大雨から一転して青空が広がる昼下がり。
駅近くのカフェでアフタヌーンティーを楽しむ傍ら、半ば徹夜で仕上げたレポートを差し出す。
「いつもありがと。でも千颯、毎回よくこんなに調べられるね」
ぱらぱらと調書をめくりながら、玲は怪訝そうな顔をする。
「まぁ、その辺は企業秘密ということで」
多くは語らないまま、アップルパイを頬張った。
私はあの事件が落ち着き次第、関東厚生局麻薬取締部、通称マトリの手伝いをしている。
玲の下で働く情報収集役。
いわゆるSという役目だ。
「その後、お兄さんの様子はどう?」
「相変わらずというか、まだ病院」
逮捕されてからしばらくして、兄には執行猶予付きの有罪判決が下った。
本人も納得しているし、十分反省の余地もあるとの判決だ。
だが、私たち家族が思っていたよりもずっと中毒症状が重く、今もまだ警察の管理下にある病院で治療を受けている。
警察の判断で、家族ですら面会もままならない状態なので、よほどの状態なのだろう。
「でも、病院の先生からは、お兄ちゃん頑張ってますって聞いてるから。今は信じるしかないんだ」
「そうだね。少しでも早く会えるといいね」
「ありがと」
事件の前から近所に住んでいたということもあって仲良くしてくれていたけれど、あの一件の後もずっと玲は親身になってくれている。
兄のような人をこれ以上出したくないという気持ちも嘘ではないけれど、今度は私が彼女の力になりたい、力になれることがあるならと思って、自分からSになることを申し出た。
もちろん最初は反対されて、まったく取り合ってすらくれなかった。
でも、何度も何度も頭を下げて、結局は根負けして折れてくれた。
まぁ、その後も彼女の上司である関さんに認めてもらうまでもひと悶着あったのだけれど、いろいろと約束することを条件になんとか認めてもらって、今のポジションに落ち着くことができた。
「あ、もうこんな時間!」
ちらりとスマホの時計を確認してみると、もうすっかり夕方の四時を回っていた。
そろそろ夕食の買い物をして帰らないと。そう告げると、例は嬉しそうに目を細めた。
「千颯、関さんとはうまくやってるんだ?」
「もうっ、揶揄わないでよ!」
慌ただしく荷物をまとめて、自分の分のお金をテーブルに置き、早々に店を後にする。
今晩の献立を頭に思い描いて、駅まで早足で向かった。
* * *
鍋に火をかけて、あとは煮込むだけ。
ふぅっとひと息ついたところで、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「よかった、今日はちゃんと家にいるな」
心底安堵した、関さんの声。それが耳朶をくすぐると、私も安心する。
「おかえりなさい、大輔さん」
「ただいま」
言葉とともに、ほんの少し触れるだけのキスを交わす。
いつの頃からか当たり前になった、私たちの習慣。
「もうすぐできるので、着替えてきてください」
「ん、わかった」
おまけにもう一つ、というように彼は額に唇を落としてから、キッチンを出ていく。
頬が少し熱くなってしまって、慌てて手で仰いで冷まそうと試みた。
大輔さんとは、あの事件で面識を持った。
私の危機を間一髪のところで救ってくれた彼。
事件が落ち着いてからも、しばらくは危ないかもしれないからと警護も兼ねてマンションの隣に住んでくれた。
最初のうちは、玲の方がいいと言っていたけど、別の事件に掛かりきりでまともに帰れそうにないということで、その話はなくなってしまったのだ。
もちろん大輔さんも多忙な人だったけれど、私がいるからとなるべく帰れるときは早く帰るようにしてくれて、その感謝やお礼にと食事を一緒に摂るようになった。
そうこうしているうちに、なんとなく情が湧いてしまったというか、お互いに離れ難くなって、最終的には付き合うという形で落ち着いた。
その頃から呼び方を関さん、から大輔さん、に変えた。
なかなかの硬派に見えた大輔が、あそこまでスキンシップを求めてくる人だとは少し意外だったけれど、私も幸せだからまぁいいかと深く考えることはやめた。
二人で食卓を囲んで、食後にはソファに並んで笑い合って、最後には一緒のベッドに入って手を繋いだまま眠る。
そんな幸せがあるから、私は心を強く持っていられるだろう。
大丈夫、まだ、やれる。
...to next.