物書きリハビリ中
10/11
2023/10/11 15:10「説明しろ」
扉を開けた途端に降ってきた声に目を瞑る。
短い言葉ではあるが、込められた感情がダイレクトに伝わってきた。
待たせていたんだろうな、と頭の片隅で考えた。
「うん」
ここにいるのにトレーニングも何もしていないゾロの顔を見返す。
その行動自体が大きな意味を持つような気がして、目を伏せたくなる気持ちを抑えるのに必死だった。
「子供がいるのは本当。そろそろ1歳3ヶ月になる」
「…」
少し計算すれば修行期間の半分より少し早いくらいの時期に生まれたことがわかるはずだ。
「なんでおれに言わなかった」
…そりゃそうだよね。
「…話してなかったんだけど、私、修行期間の最初のころ研究所みたいなところに捕まってて…たぶん薬漬けにされてたのね」
「…」
「その頃の記憶は曖昧で、すごくつらい思いをした気もするし、それは夢だった気もするし」
無意識にため息が出た。
思い出すたびに、逃がしてもらえた幸運に体が震えてしまう。
この話をするのはルフィに次いで二人目。
本当はもっと早く伝えるべきだったのだ。
何度か体を重ねたこの人には。
「だから子供ができたってわかった時も、…よくわからなかった。ゾロはいつも…避けようとしてくれてたし、研究所の記憶も曖昧だったから」
というのはただの言い訳で、本当は怖かっただけなのだ、と自白したい衝動に駆られる。
「…」
普段も無口と言えるゾロの沈黙がいつもより特別に胸に刺さる。
私には子供がいます。父親はわかりません。あなたかも知れないしあなたじゃないかも知れない。それで。
「…黙っててごめんなさい」
ゾロが舌打ちをした。
「…見た目が私の生き写しみたいに似てて、父親要素がないっていうか…だから、なんていうか」
これで髪色が特徴的だったりしたら話は簡単なのだけれど。
そもそも父親が誰かわからない子供を身籠るような女、この人から見たら。
それに、わたしが弱かったせいで捕まって、もしかしてこの人の子供かも知れない子を危険に晒して、
「…そうじゃねェ」
その「そう」が何を指しているのか、わたしが「どう」言ったように聞こえたのか、わからないことだらけだ。正直逃げ出したい。
「…この前」
ぶっきらぼうな言葉と裏腹に、頬に伸ばされる手に違和感があった。
まるで、おそるおそるというような。
「イヤじゃなかったか」
「この前」が1か月くらい前に体を重ねた時のことだと思い至って、少し考える。
イヤでは、なかった。
わたしの体がどこか変わっていないか、それがこの人を不快にしないか、そればかり気になって、そのうち何も考えられなくなって。
「…うん。イヤじゃ、なかった」
手に籠っていた力が少し抜けたように思えた。
「…言われなきゃ、わかんねェ」
「…ごめん」
「謝るな」
「…ご、…うん」
頬に伸びていた手がゆっくりと体に巻きつく。
少し珍しくて目を見開いた。
「子供にも会わせろ。いつか」
「うん」
「その時は、」
「うん?」
「…いや、いい。今は」
彼には珍しく歯切れの悪い言葉に、心の中で首を傾げつつ、なんだか久しぶりに抱きしめられたなぁと、少しだけ目頭が熱くなってしまった。
扉を開けた途端に降ってきた声に目を瞑る。
短い言葉ではあるが、込められた感情がダイレクトに伝わってきた。
待たせていたんだろうな、と頭の片隅で考えた。
「うん」
ここにいるのにトレーニングも何もしていないゾロの顔を見返す。
その行動自体が大きな意味を持つような気がして、目を伏せたくなる気持ちを抑えるのに必死だった。
「子供がいるのは本当。そろそろ1歳3ヶ月になる」
「…」
少し計算すれば修行期間の半分より少し早いくらいの時期に生まれたことがわかるはずだ。
「なんでおれに言わなかった」
…そりゃそうだよね。
「…話してなかったんだけど、私、修行期間の最初のころ研究所みたいなところに捕まってて…たぶん薬漬けにされてたのね」
「…」
「その頃の記憶は曖昧で、すごくつらい思いをした気もするし、それは夢だった気もするし」
無意識にため息が出た。
思い出すたびに、逃がしてもらえた幸運に体が震えてしまう。
この話をするのはルフィに次いで二人目。
本当はもっと早く伝えるべきだったのだ。
何度か体を重ねたこの人には。
「だから子供ができたってわかった時も、…よくわからなかった。ゾロはいつも…避けようとしてくれてたし、研究所の記憶も曖昧だったから」
というのはただの言い訳で、本当は怖かっただけなのだ、と自白したい衝動に駆られる。
「…」
普段も無口と言えるゾロの沈黙がいつもより特別に胸に刺さる。
私には子供がいます。父親はわかりません。あなたかも知れないしあなたじゃないかも知れない。それで。
「…黙っててごめんなさい」
ゾロが舌打ちをした。
「…見た目が私の生き写しみたいに似てて、父親要素がないっていうか…だから、なんていうか」
これで髪色が特徴的だったりしたら話は簡単なのだけれど。
そもそも父親が誰かわからない子供を身籠るような女、この人から見たら。
それに、わたしが弱かったせいで捕まって、もしかしてこの人の子供かも知れない子を危険に晒して、
「…そうじゃねェ」
その「そう」が何を指しているのか、わたしが「どう」言ったように聞こえたのか、わからないことだらけだ。正直逃げ出したい。
「…この前」
ぶっきらぼうな言葉と裏腹に、頬に伸ばされる手に違和感があった。
まるで、おそるおそるというような。
「イヤじゃなかったか」
「この前」が1か月くらい前に体を重ねた時のことだと思い至って、少し考える。
イヤでは、なかった。
わたしの体がどこか変わっていないか、それがこの人を不快にしないか、そればかり気になって、そのうち何も考えられなくなって。
「…うん。イヤじゃ、なかった」
手に籠っていた力が少し抜けたように思えた。
「…言われなきゃ、わかんねェ」
「…ごめん」
「謝るな」
「…ご、…うん」
頬に伸びていた手がゆっくりと体に巻きつく。
少し珍しくて目を見開いた。
「子供にも会わせろ。いつか」
「うん」
「その時は、」
「うん?」
「…いや、いい。今は」
彼には珍しく歯切れの悪い言葉に、心の中で首を傾げつつ、なんだか久しぶりに抱きしめられたなぁと、少しだけ目頭が熱くなってしまった。