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物書きリハビリ中

10/6

2023/10/06 00:15
年をとって新しい自分に生まれ変わる、こともなく。
結局いつも通りただ図書室の同じ席に座って外を見ている。

外…というか、向かいの格技室を。

この席を見つけたのは去年の夏だった。
勉強を大義名分に一年以上この席に座って、その半分以上をあの人を探す時間に当てている。


竹刀を向け合っていた二人が一礼してそれぞれの場所に戻り、
新しく出てきた後ろ姿に心臓をぎゅっと鷲掴みされる。

全員同じ格好をしているから、もしかしたら間違っているかも。
それがわかるのは試合中に偶然こっちを向いた時か、試合が終わってこちら側に戻って来る時だけ。
相手の名前に目をやると部長だったから、もし本当にそうなら今日はラッキーだ。

向かい合う二人がスッと膝をかがめ、次の瞬間立ち上がって激しい打ち合いを始める。

ーあ。

二人の場所が入れ替わって、ロロノア、という刺繍が見えた。


今日はラッキーな日だ。
部長以外が相手なら勝負は一瞬で、すぐ下がっていってしまうし。
たまにヤキモキしながら最後まで待つことになる日もあるけど。
今日はすぐ見れた上に試合も長くて、言うことなしだ。

とはいえその時間も実際そんなに長くはない。
勝負がついて…というかあの人が勝って、二人が礼をして戻っていく。

あーあ。今日の分終わっちゃった。


開いていた教科書に目を落とす。
なのに名残惜しくてもう一度格技室に目を向けた。

春になったら予備校に通うことになりそうで、そしたらもうこの席には座ってられない。
こうやってあの人を探すこともできなくなる。
友達にも言っていないから、あの人が何をしているのかとかを知ることもないし。

きっと友達に言ったら、「えっまじで!?」「どこが好きなの?」「いつから好きなの!?」と根掘り葉掘り聞かれた後に「言わないの!?言っちゃいなよー!」と無責任にけしかけられるだけだ。傷つくのは私なのに。

そう。きっと傷つく。
あの人がどんな人か、去年同じクラスだっただけだし深くは知らないけど、そういうごたごたは面倒だと思ってそうだな、って。
たぶん面倒だと思われる。
想像しただけで地面が歪む気がするくらいこわい。

だから、何もせずここから見ている。

地面が歪むより、気持ちを伝えられないモヤモヤの方がマシだ。


いつか、あの時勇気を出せばよかったって後悔するかも知れないけど。
結局そんな勇気、私のどこを探してもないのだから。

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