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物書きリハビリ中

11/1

2021/11/01 00:00
ゾロ
好きだ、と聞こえた気がした。

振り返るとうちの船の、硬派が服を着て歩いてるような剣士がこっちを見ている。
好きだ。何がと問うのは野暮だろうなぁとか思っているうち、ご丁寧に「お前が好きだ」と言い直された。ありがとう。私が呆けているから理解していないと思ったのね。

「…ゾロってそういう感情あったんだ」
「バカにしてんのか」
「ううん、してない」

そんなワンクッションを挟んだのは、ひとまず時間を稼いで頭の中を落ち着けるためだった。

わたしも、と言えば何が変わるのだろう。例えば航海中、戦闘中、上陸中のシーンが。


ひとつ確かなことは。
ゾロが怪我をする度に心配で張り裂けそうになる心が、きっともっと弱くなるということ。
たぶん心配で喚き散らしたりするだろう。今だってギリギリしていないだけで、ちょっと気を緩めれば容易に取り乱せる。

目指す場所にまっすぐなこの人を、そんなことで煩わせる訳にはいかない。
せめて野望を叶えてからじゃないと、思う存分泣き喚けないじゃないか。

目の前の剣士に視線を戻す。

「ゾロが世界一になったら、考える」

言ってしまってから、それがとても不遜なセリフだと気づく。
慌てて訂正しようと目を挙げた先で、ゾロは心底愉快そうに笑っていた。

「へぇ、言うじゃねェか」

グッと距離を詰めてきたゾロの分厚い手が私の手に触れた。ピアスのぶつかる音が鼓膜を打って、鉄と汗の匂いが近くなる。

「ならそれまで他の男に口説かれんじゃねェぞ」

目と鼻の先ギリギリで発された言葉がさらに近付いてくる。
五感全てを埋め尽くされそうになりながら、その誘惑に負けそうになりながら、それでも私はかろうじて厚い胸板を押し返すことに成功したのだった。

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