物書きリハビリ中
11/17
2021/11/17 10:45サンジ
キッチンのカウンターに突っ伏して料理の音に耳を澄ませている。
煮込み料理の音は心が落ち着く。
リズミカルな包丁の音は耳に心地いい。
「あめ」
「リオちゃんは雨が嫌いかい?」
「うん」
みんなには言っていないが私は筋金入りの偏頭痛持ちだ。
雨降りの日は頭が割れそうなほどの痛みを感じる。
天候急変の多いグランドラインで少しは鍛えられたものの、疲れが溜まっていたりするとすぐに痛みが出てしまう。
「ずっと晴れてたらいいのに」
「あァ、そりゃあ毎日気分がいいだろうな」
前の世界でも雨の日は声の鳴りが悪くて苦戦したものだった。
天気を理由に仕事を休めるのは一部の限られた職業の人だけだから、頭が痛くても普段通り動き回る術は身についている。
「でも、雨の日しか出逢えないものもある」
「…例えば?」
「そうだなァ…こないだナミさんが“湿気で髪が広がる”っつってポニーテールにしてたのはキュートさが飛び抜けていっそ神々しいと思った」
「あーかわいかったね」
「あとロビンちゃんがいつもより着込んでて、カーディガンに埋もれてる感じが彼女のプライベートを覗いたような背徳的な」
「うんわかった」
この後“背徳的といえばいついつのロビンちゃんは…”みたいに続く未来が目に見えたので、早々に話を打ち切った。
かちゃり、と陶器のぶつかる音がして顔を上げると、サンジがティーカップを準備しているところだった。
なるほど、雨の日はいつもより耳が鋭くなるのかもしれない。
普段は気にしない音がすごく鮮やかに耳を打つ。
「あとはそうだなァ」
サンジがやかんを手に取り、ポットにお湯を注ぐ。
コポコポという音がやけに立体的に聞こえた。
「いつもは忙しく船内中の掃除をして回ってるリオちゃんが、こうやっておれの傍にいてくれることとか」
頭が痛くなかったら頬を染めたりしたかもしれない、と思った。
サンジがいつもみたいに目をハートにするとかじゃなくて、伏し目がちに穏やかな表情で言うものだから、なんていうか。
…まるで本当に愛おしい人に向けて言っているみたいな。
「…そういうサンジもいつもと違うね」
「そうかい?」
「うん、いつももっと早く動いてる気がする」
「あァ…このハーブティは抽出にコツがいるんだよ」
「そうなの?」
「あァ。温度管理が繊細な上に、淹れたてを飲まないと一気に味が落ちる。だから、」
いつだったか嗅いだことのある香りだな、なんて思っていたら目の前にティーカップが置かれた。
思い出した。確か前も雨の日で、これを飲んだらちょっと痛みが和らいだ気がして、不思議に思ったんだ。
「おれとしちゃあリオちゃんに特製ハーブティーをご馳走できるチャンスでもある」
気づいてたの、と聞こうとしたけれど、こうやってさりげなく気遣ってくれる人に直球で聞くのはなんとなく躊躇われた。
代わりに私はカップを手に取って香りをゆっくり吸い込む。
「…いい匂い。ありがとう、サンジ」
「どういたしまして」
煮込み料理の音は心が落ち着く。
リズミカルな包丁の音は耳に心地いい。
「あめ」
「リオちゃんは雨が嫌いかい?」
「うん」
みんなには言っていないが私は筋金入りの偏頭痛持ちだ。
雨降りの日は頭が割れそうなほどの痛みを感じる。
天候急変の多いグランドラインで少しは鍛えられたものの、疲れが溜まっていたりするとすぐに痛みが出てしまう。
「ずっと晴れてたらいいのに」
「あァ、そりゃあ毎日気分がいいだろうな」
前の世界でも雨の日は声の鳴りが悪くて苦戦したものだった。
天気を理由に仕事を休めるのは一部の限られた職業の人だけだから、頭が痛くても普段通り動き回る術は身についている。
「でも、雨の日しか出逢えないものもある」
「…例えば?」
「そうだなァ…こないだナミさんが“湿気で髪が広がる”っつってポニーテールにしてたのはキュートさが飛び抜けていっそ神々しいと思った」
「あーかわいかったね」
「あとロビンちゃんがいつもより着込んでて、カーディガンに埋もれてる感じが彼女のプライベートを覗いたような背徳的な」
「うんわかった」
この後“背徳的といえばいついつのロビンちゃんは…”みたいに続く未来が目に見えたので、早々に話を打ち切った。
かちゃり、と陶器のぶつかる音がして顔を上げると、サンジがティーカップを準備しているところだった。
なるほど、雨の日はいつもより耳が鋭くなるのかもしれない。
普段は気にしない音がすごく鮮やかに耳を打つ。
「あとはそうだなァ」
サンジがやかんを手に取り、ポットにお湯を注ぐ。
コポコポという音がやけに立体的に聞こえた。
「いつもは忙しく船内中の掃除をして回ってるリオちゃんが、こうやっておれの傍にいてくれることとか」
頭が痛くなかったら頬を染めたりしたかもしれない、と思った。
サンジがいつもみたいに目をハートにするとかじゃなくて、伏し目がちに穏やかな表情で言うものだから、なんていうか。
…まるで本当に愛おしい人に向けて言っているみたいな。
「…そういうサンジもいつもと違うね」
「そうかい?」
「うん、いつももっと早く動いてる気がする」
「あァ…このハーブティは抽出にコツがいるんだよ」
「そうなの?」
「あァ。温度管理が繊細な上に、淹れたてを飲まないと一気に味が落ちる。だから、」
いつだったか嗅いだことのある香りだな、なんて思っていたら目の前にティーカップが置かれた。
思い出した。確か前も雨の日で、これを飲んだらちょっと痛みが和らいだ気がして、不思議に思ったんだ。
「おれとしちゃあリオちゃんに特製ハーブティーをご馳走できるチャンスでもある」
気づいてたの、と聞こうとしたけれど、こうやってさりげなく気遣ってくれる人に直球で聞くのはなんとなく躊躇われた。
代わりに私はカップを手に取って香りをゆっくり吸い込む。
「…いい匂い。ありがとう、サンジ」
「どういたしまして」