短いお話をあなたに
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新しい木の匂いを吸い込みつつ、梯子を登って木戸を開けた。
「ゾロ」
「おう」
新しいはずの床板がギシギシと音を立てるほど重いダンベルを上下させているゾロの斜め向かいに座った。
「…すごい船だね」
「そうだな」
ちょっと嬉しそうに見えるのは気のせいじゃないはず。
久しぶりにゾロの穏やかな顔を見た気がした。
”迷うな。お前がフラフラしてやがったらおれ達は誰を信じりゃいいんだよ!!!”
”船を空け渡そう。おれ達はもう…この船には戻れねェから”
”落とし前つける時が来たんじゃねェのか?
………あの女は〝敵〟か〝仲間〟か…”
”あの軍艦の群れがいつこっちを向いても逃げ道を失わねェ様に、おれ達はここでルフィを待つ!!”
”普段おちゃらけてんのは勝手だが、仮にもこのおれの上に立つ男がダラしねェマネしやがったら、今度はおれがこの一味を抜けてやるぞ!!!”
”一味を抜けるってのは そんなに簡単な事なのか!!?”
この島でのゾロを思い出し、改めてすごいなあ、と思う。
そして思ったことはすぐに口からこぼれ落ちた。
「ゾロはすごい人だね」
「…おまえ脈絡ねぇのな」
「うん」
呆れたような声色は気にせず話を続ける。
「ちゃんと正しい、筋の通ったことが言えて、冷静な判断もできて、それを貫き通す強さもあって、でも実は人の事も考えられて」
「…」
ゾロがダンベルを置いた。
わずかに息を弾ませながら、少し離れたベンチに座る。
「おれは出来ることをしただけだ」
「…カッコいいなぁ」
「茶化すな」
「ごめん」
天井を見る。美しい木目。
これを作った新しい仲間は、目の前に現れた“悪魔の子”の存在を無条件で肯定してみせた。
みんな、それぞれの強さ、素敵さ。
「私はただ見てるだけだったなぁ」
言ってから、しまった、と思った。
こう言うのをゾロは嫌うんじゃないのか。
「ごめん、なんでも」
「お前もやってたろ」
「…え?」
「お前に出来ること」
これ、は。
これは…認めてくれてる?
「…出来てたかな」
「あァ」
「…そっか」
じんわりと胸に火が灯ったような錯覚。
「…誰に褒められても嬉しいけど…ゾロに認められると特に嬉しいかも」
「そうか?」
「うん」
この人の言葉にお世辞や嘘はないと思えるから。
「ありがと、ゾロ」
今度は返事はなかったけれど、珍しく少し俯いて頭を掻く仕草を、返事の代わりに受け取っておこうってそっと微笑んだ。
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