短いお話をあなたに
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部屋に入ると明かりがついていなかった。
「おい」
ベッドの上、毛布の膨らみに向かって声をかける。
「…一人にして」
鼻にかかった声が返ってきて、予想通りかとため息が漏れた。
「そのままだと酸欠になるぞ」
ニナに背を向けてベッドの端に座ると、ゴソゴソと顔を出す気配がした。
「ティッシュ取って」
言うとおりに取ってやると今度は鼻をかんだゴミを捨てろという。
おれをそんな風に使える奴は、後にも先にもこいつくらいだ。
「…で?」
何故こんな風になっているか、という問いだが、答えは大方わかっている。
仕事で上手く行かなかっただの、人間関係で躓いただの、そういう類の。
「…。…私は、」
それでも問いかけるのは、こいつにはそれが必要だと知っているからだ。
「求められるレベルに達してないの、」
ひくっとしゃくり上げる音がした。
「残業せずに、1つもミスなく、今の量の仕事こなすの無理なの」
言葉が詰まって、多分また泣き出してるだろうニナの頭に手を置いた。
こいつは泣き顔を見られることを極端に嫌う。
「…やめて、」
ふるりと頭を振り、ニナはおれの手から逃れる。
ひとつ息をついておれは腰を上げた。
*
パタン、と言う音がやけに大きく聞こえた。
部屋にひとりになって、それを望んだのは自分のはずなのに、急な不安に襲われる。
身を起こしてドアを見た。
そこにローはいなくて、体ごと目を逸らした。
ローは仕事のできる人だ。
なんでもスマートに出来るし、周りからの信頼も厚い。
実は裏ではものすごい努力をしているのに、それを絶対に表に出さない。
それに比べて。
こんな些細なことで泣いている私なんて、本当は、
「ニナ」
コトリとサイドテーブルに置かれたのはマグカップだった。
肩を跳ねさせた私の後ろがぎしりと軋み、ローが背後に座る。
「抱きしめていいか」
「…」
しばらく迷ってからこくりとうなづくと、長い腕が体に巻き付く。
ローが肩に顔を埋めた。
「ごめん、私さっき、」
ぎゅっと引き寄せられて、私の体はローの足の間に収まった。
「お前がいつも、誰の慰めもなしに立ち直ろうとしてんのは知ってる」
「…」
「で、おれ以外にはそうなった自分を見せないのも知ってる」
ローの唇がいっそう近づき、息が耳たぶに掛かる。
「おれにはそれが嬉しい」
「…っ」
ローの声があまりに温かくて、堪えきれない涙がぼろぼろと零れ落ちた。
「…ほんとは、こんなにカッコ悪く、なりたくないの」
「そうか」
ローの指が涙を拭う。
「ローみたいに、仕事できる、人になりたい」
「…そうか」
涙を拭っていた手が上にずれて、ポンポンと私の頭を撫でる。
「嫌なことも、自分で、なんとかできるくらい、強くなりたい」
「あァ」
頭を撫でていた手が顎をなぞり横を向かされる。
ローと目が合った。
「…それから?」
声の色そのままの眼差しが私に向けられていた。
それに気づいた瞬間、心の中にわだかまっていたモヤモヤが一気に晴れる。
「…ココア、飲みたい」
小さく笑ってサイドテーブルに手を伸ばすローには、きっと全部お見通しだ。
私がこうなった時にどうしてほしいのかも、その後に何が飲みたくなるのかも。
不意に胸をぎゅっと掴まれるような愛しさがこみ上げた。
こんなにすごい人が、私の感情の波に付き合ってくれている。
衝動的にローの背中に抱き着いた。
それを驚くでもなく受け止めて、マグカップを手にしたローが私を振り返る。
「口移ししてやろうか?」
もったいぶって答えを伸ばす私に、ローはさっきと同じ眼差しをずっと向けてくれている。
「おい」
ベッドの上、毛布の膨らみに向かって声をかける。
「…一人にして」
鼻にかかった声が返ってきて、予想通りかとため息が漏れた。
「そのままだと酸欠になるぞ」
ニナに背を向けてベッドの端に座ると、ゴソゴソと顔を出す気配がした。
「ティッシュ取って」
言うとおりに取ってやると今度は鼻をかんだゴミを捨てろという。
おれをそんな風に使える奴は、後にも先にもこいつくらいだ。
「…で?」
何故こんな風になっているか、という問いだが、答えは大方わかっている。
仕事で上手く行かなかっただの、人間関係で躓いただの、そういう類の。
「…。…私は、」
それでも問いかけるのは、こいつにはそれが必要だと知っているからだ。
「求められるレベルに達してないの、」
ひくっとしゃくり上げる音がした。
「残業せずに、1つもミスなく、今の量の仕事こなすの無理なの」
言葉が詰まって、多分また泣き出してるだろうニナの頭に手を置いた。
こいつは泣き顔を見られることを極端に嫌う。
「…やめて、」
ふるりと頭を振り、ニナはおれの手から逃れる。
ひとつ息をついておれは腰を上げた。
*
パタン、と言う音がやけに大きく聞こえた。
部屋にひとりになって、それを望んだのは自分のはずなのに、急な不安に襲われる。
身を起こしてドアを見た。
そこにローはいなくて、体ごと目を逸らした。
ローは仕事のできる人だ。
なんでもスマートに出来るし、周りからの信頼も厚い。
実は裏ではものすごい努力をしているのに、それを絶対に表に出さない。
それに比べて。
こんな些細なことで泣いている私なんて、本当は、
「ニナ」
コトリとサイドテーブルに置かれたのはマグカップだった。
肩を跳ねさせた私の後ろがぎしりと軋み、ローが背後に座る。
「抱きしめていいか」
「…」
しばらく迷ってからこくりとうなづくと、長い腕が体に巻き付く。
ローが肩に顔を埋めた。
「ごめん、私さっき、」
ぎゅっと引き寄せられて、私の体はローの足の間に収まった。
「お前がいつも、誰の慰めもなしに立ち直ろうとしてんのは知ってる」
「…」
「で、おれ以外にはそうなった自分を見せないのも知ってる」
ローの唇がいっそう近づき、息が耳たぶに掛かる。
「おれにはそれが嬉しい」
「…っ」
ローの声があまりに温かくて、堪えきれない涙がぼろぼろと零れ落ちた。
「…ほんとは、こんなにカッコ悪く、なりたくないの」
「そうか」
ローの指が涙を拭う。
「ローみたいに、仕事できる、人になりたい」
「…そうか」
涙を拭っていた手が上にずれて、ポンポンと私の頭を撫でる。
「嫌なことも、自分で、なんとかできるくらい、強くなりたい」
「あァ」
頭を撫でていた手が顎をなぞり横を向かされる。
ローと目が合った。
「…それから?」
声の色そのままの眼差しが私に向けられていた。
それに気づいた瞬間、心の中にわだかまっていたモヤモヤが一気に晴れる。
「…ココア、飲みたい」
小さく笑ってサイドテーブルに手を伸ばすローには、きっと全部お見通しだ。
私がこうなった時にどうしてほしいのかも、その後に何が飲みたくなるのかも。
不意に胸をぎゅっと掴まれるような愛しさがこみ上げた。
こんなにすごい人が、私の感情の波に付き合ってくれている。
衝動的にローの背中に抱き着いた。
それを驚くでもなく受け止めて、マグカップを手にしたローが私を振り返る。
「口移ししてやろうか?」
もったいぶって答えを伸ばす私に、ローはさっきと同じ眼差しをずっと向けてくれている。
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