引越し、7月
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荷解きに思ったより時間がかかっている。
「物多過ぎねェか」
「そう?身支度に必要なものが多いからね」
「そっか。女だもんな」
「…」
この人、私の性別について考えたことあったのね。
「これは?」
「あっそれは、」
「あ、」
見られた。
「…ワリィ」
「…見えるようにしといた私も悪いわ」
「いやホント、悪かった」
「気にしないで。むしろ気にされる方が気まずいから」
「…そうか?そうかもな。じゃあ」
サボが真っすぐ私を見た。
「お前あんな下着持ってんだな。なんか意外だ」
「…それは開き直りすぎじゃないかしら」
一人暮らしを始めてから、実家では買えなかったセクシーな下着を揃えるようになった。別に誰に見せる訳でもなかったけれど、どんどん痩せて行く体を少しでも美しくという無意識が働いていたのかもしれない。
気まずい空気から抜け出したくて、当たり障りのない話題を探した。
「来週から就職活動しなくちゃ」
「…おう、頑張れ」
「生きてる限り労働とは切り離されないよねえ…」
「何だよ急に」
「だって今も無職なのにこんなに労働してるのよ、私」
おれは仕事もしてこの労働もしてる、みたいな反論が来ることをイメージして待っていたが、予想通りになることはなかった。
「なあ、」
「うん?」
「永久就職って興味ねぇ?」
「…どうしたの急に」
「ちょっと思いついて」
「永久就職って、結婚って意味だよね」
「あァ」
結婚。
「うーん、いつかはしたいと思うわ」
「そうか」
「だからいい人いたら紹介してね」
「…。どんな奴がいい?」
「そうねぇ…」
理屈っぽいと言われがちな私は、恋愛においてのみ感覚的な側面が目を覚ます。
「見た目はこだわらないから、ちゃんと話し合いができて、食べ物の好みが合う人」
サボが目を細めた。きっとバカにされるだろうと思いながら言葉を待つ。
「いねぇだろそんな奴」
「そうかな」
「まずお前のIQと語彙力に着いていける男そう居ねぇし」
「褒められてる?」
「その条件クリアした時点でこの片田舎からは出てってるよ」
「なるほど」
「しかも見た目こだわらねぇって言いながら、ガタイいい奴じゃねぇと”なんか違う”ってなるんだろ?」
「…よくわかってらっしゃる」
思った通りの返答が帰ってきたと目を伏せる。
「あァでも」
思い付いたような声色にまた目を上げた。
「ひとり心当たりがいるな。お前と議論出来てそこそこ体鍛えてて、食の好みが合う奴」
「ほんと?」
「あァ」
サボは普段の器用な笑顔ではなくて、私は内心首をかしげる。
「どんな人?」
「ガキの頃からお前と対等に話したいってたくさん本読んできて、大工さんカッコいいって言うから体鍛え始めて、一緒にラーメン食ってうめぇって言い合える奴だ」
「…」
「そいつが今日この後、ラーメンだけじゃなくて宅飲みしてェって言ったとしたら、お前来るか?」
あーあ。厭になっちゃう。
どうしてこうスマートにカッコよく成長しちゃったんだろう。
昔のだらしなくて甘ったれなままのサボでもよかったのに。
「…どうしようかな」
「無理にとは言わねぇけど」
二パッと悪戯っぽい笑顔が浮かんだ。
「来たらきっと楽しいと思うぞ」
そっちの笑顔には弱いんだよなあ、と思いながら、気付くと私は首を縦に振っていたのだった。
「物多過ぎねェか」
「そう?身支度に必要なものが多いからね」
「そっか。女だもんな」
「…」
この人、私の性別について考えたことあったのね。
「これは?」
「あっそれは、」
「あ、」
見られた。
「…ワリィ」
「…見えるようにしといた私も悪いわ」
「いやホント、悪かった」
「気にしないで。むしろ気にされる方が気まずいから」
「…そうか?そうかもな。じゃあ」
サボが真っすぐ私を見た。
「お前あんな下着持ってんだな。なんか意外だ」
「…それは開き直りすぎじゃないかしら」
一人暮らしを始めてから、実家では買えなかったセクシーな下着を揃えるようになった。別に誰に見せる訳でもなかったけれど、どんどん痩せて行く体を少しでも美しくという無意識が働いていたのかもしれない。
気まずい空気から抜け出したくて、当たり障りのない話題を探した。
「来週から就職活動しなくちゃ」
「…おう、頑張れ」
「生きてる限り労働とは切り離されないよねえ…」
「何だよ急に」
「だって今も無職なのにこんなに労働してるのよ、私」
おれは仕事もしてこの労働もしてる、みたいな反論が来ることをイメージして待っていたが、予想通りになることはなかった。
「なあ、」
「うん?」
「永久就職って興味ねぇ?」
「…どうしたの急に」
「ちょっと思いついて」
「永久就職って、結婚って意味だよね」
「あァ」
結婚。
「うーん、いつかはしたいと思うわ」
「そうか」
「だからいい人いたら紹介してね」
「…。どんな奴がいい?」
「そうねぇ…」
理屈っぽいと言われがちな私は、恋愛においてのみ感覚的な側面が目を覚ます。
「見た目はこだわらないから、ちゃんと話し合いができて、食べ物の好みが合う人」
サボが目を細めた。きっとバカにされるだろうと思いながら言葉を待つ。
「いねぇだろそんな奴」
「そうかな」
「まずお前のIQと語彙力に着いていける男そう居ねぇし」
「褒められてる?」
「その条件クリアした時点でこの片田舎からは出てってるよ」
「なるほど」
「しかも見た目こだわらねぇって言いながら、ガタイいい奴じゃねぇと”なんか違う”ってなるんだろ?」
「…よくわかってらっしゃる」
思った通りの返答が帰ってきたと目を伏せる。
「あァでも」
思い付いたような声色にまた目を上げた。
「ひとり心当たりがいるな。お前と議論出来てそこそこ体鍛えてて、食の好みが合う奴」
「ほんと?」
「あァ」
サボは普段の器用な笑顔ではなくて、私は内心首をかしげる。
「どんな人?」
「ガキの頃からお前と対等に話したいってたくさん本読んできて、大工さんカッコいいって言うから体鍛え始めて、一緒にラーメン食ってうめぇって言い合える奴だ」
「…」
「そいつが今日この後、ラーメンだけじゃなくて宅飲みしてェって言ったとしたら、お前来るか?」
あーあ。厭になっちゃう。
どうしてこうスマートにカッコよく成長しちゃったんだろう。
昔のだらしなくて甘ったれなままのサボでもよかったのに。
「…どうしようかな」
「無理にとは言わねぇけど」
二パッと悪戯っぽい笑顔が浮かんだ。
「来たらきっと楽しいと思うぞ」
そっちの笑顔には弱いんだよなあ、と思いながら、気付くと私は首を縦に振っていたのだった。
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