終わりと始まりの夏
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マンションの前に着く。
髪の毛が煙臭い。早くシャワー浴びたい。
「送ってくれてありがと、また月曜に会社でね」
いつも通りのあいさつをして助手席から降りようとしたら、右手首を掴まれた。
びっくりして体が跳ねる。
振り返ると、エースが私の手首に視線を落としていた。
…手に何かついてた、訳ではなさそうだ。
「…エース?」
エースは何も言わない。
浮かせた腰をシートへ戻す。
「…どうしたの?」
はあ、と大きく息を吐いたエースが、視線を上げた。
普段なかなかお目に掛かれない、真剣な表情が晒される。
「…なァ」
「…うん?」
「4ヶ月だな、沖縄から」
「…そっか、もうそんなに経ったんだね」
「…」
「…エース?」
「なァ、シホ」
「…なに?」
「6ヶ月、経ったんだろ」
視線が真摯すぎて、言うべき言葉が見つからない。
なんのはなし?とか、さっすがエース、記憶力いいね!とか、これまで同期の距離感を守るために、考えて考えて茶化してきたセリフが、ひとつひとつ浮かんでは消えていく。
エースは私の右手を両手で包んだ。大切なものでも触るかのように。
うつむきがちな姿勢から見上げた表情に、「懇願」という言葉が頭をよぎる。
次の瞬間エースは「勝負」の顔になった。
プレゼンで、最後の一押しを決める時の顔。
「そろそろ、お前を口説いてもいいか」
びっくり、した。
びっくりしすぎて逆に冷静になった私は、こういう時どんな顔をすればいいかを考える。
もう同期の距離感ではいられなくなるのかもしれない。
男と、女になる。
それなら。
「…私のこと、口説きたいの?」
「…あァ」
ニヤリ、と悪女になったつもりで笑みを浮かべる。
「…きっと、予想より、手ごわいわよ」
「…望むところだ」
エースの熱い唇が、手の甲に落ちた。