旅行の手配は会社がしてくれるから、
“打ち合わせ”と称して会議室を押さえ、日程とホテルをエースと調整する。

「あ、ここ良いんじゃねえの？プールついてるし」
「へー、プール入りたいの？」
「おう、海もそうだけどプールもあったほうがいいと思うんだよな」
「わかった。エースってあんまり観光地とか回らないタイプ？」
「うーん、あんま興味ねェ。水辺で昼寝とかしてェ」
「あと夜にお酒が飲めれば」
「もう言うことないな」
「いいね、南の島らしい過ごし方だね」

そうなると最強の日焼け止めと、いつもより気合入れたワークアウトが必要だ。

「ね、別行動の日があってもいい？」
「あーまァどっちでも。行きてェとこあんの？」
「んー水族館は行きたいな」
「おーそれは俺も行く」
「あ、ほんと？レンタカーで行くから一緒だとありがたい」

食べたいものリストを作り始めたエースを見ながら、
きっと噂とか立つんだろうなーと考える。
この会社の人たちはそのあたり寛容でオープンだから、
変にこそこそしないで「同期旅行です！」で押し通すつもり。
会社の中では私には彼氏がいることになっている。
仕事が忙しすぎて、３ヶ月前に私から別れていたのだけど、
それが知れ渡るのも面倒なので誰にも話していなかった。

＊

「エース！こっち！」
「悪ぃ、まだ間に合うか！？」
「もう荷物は預けられないけど、機内持ち込みOKのカバンだもんね？」
「ああ、大きさは大丈夫なはずだ」
「ダッシュで保安検査！」
「よしきた！」

早起きが苦手なくせに８時の飛行機を指定したエースに、
たぶんこうなるだろうと予想して、あらかじめ荷物の大きさを確認しておいて正解だった。
締め切り直前に保安検査場を通過して一息つく。

「荷物見ててくれ、空弁買ってくるから」
「いってらっしゃい」
「お前もいるか？」
「んーん、だいじょうぶ」

売店に向かう後姿を目で追うと、
近くに座っている女性たちの視線が同じように動いているのを見つける。
まあそうだ、カッコいい部類に入ると思う。

結局エースはフライト前に空弁完食、フライト中は爆睡、
到着したらソーキそばを食べたいと言い出した。
タイミングをしっかり計って食べないと、この旅行中にすごく太ることになりそうだ。