本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから。
本当にあいつはオレに近づかなくなった。
コラさんから、あいつが陸上部に入ったと聞いた。
あいつが近くに来なくなったこの半年、俺を取り巻く人間は、
吹っ掛けてくる連中と、遠巻きにするクラスのヤツらと、怯えた風の教師だけになった。
コラさんが締切前で缶詰の廃人になっているとき、オレの世界からは色も動きも消える。
オレの世界は、あいつがいたから色がついていて、動いて見えていたのだと知った。
動きと色がない世界。
医学の本にも興味が湧かなくなって、代わりにあらゆるものに腹が立つようになった。
めちゃめちゃ腹が減る割に体重は減り、夜は眠くならない。
思ったよりもオレ自身は影響を受けていた。
だが。
きっかけがああだっただけで、本当はずっと、
あいつにとってはオレの傍にいないほうがいいと思っていた。
そうすれば喧嘩に巻き込まれてケガすることもない、
本当なら必要のないボクシングを習うこともない、
放課後オレに着いて公園で喧嘩を見物することもない。
そのほうが、いいと。
*
また他校のヤツらに呼び出された。
「よォトラファルガー、こないだはよくもやってくれたなァ」
「ハッ、どれのことだか思い出せねぇな」
「…そんな口きいてられるのも今のうちだぜ?」
リーダー格が後ろの奴に合図を送ると、集団の後ろから女が一人引きずられてきた。
目にした瞬間、心臓を握りつぶされたような気分になった。
「コイツ、お前の大事なオンナなんだろー?」
「へー、わりとイイカラダしてんじゃねェかよ」
男共の浅黒い手がニナの服の上を這いまわる。
唇を噛みしめて体をこわばらせるニナを見た瞬間、全身の血が沸騰した。
次に気づいた時には、他校のヤツらは全員地面に沈んでいて、
怯えた目のニナだけが立っていた。
その怯えが、オレに向けられているように思えて、背を向けた。
全身を支配していたのは恐怖だった。
こうならないために、遠ざけたはずだ。それなのに。
オレのせいで。
心臓がウザいくらいに速くなって、足を一歩出すのも上手くいかない。
その瞬間、後ろからぶつかってくる気配がした。
「っ、ロー、」
振り返らなくてもどんな顔をしているかわかる。
「…恐、かった、」
服を握る手に力がこもる。
「助けてくれて、ありがと、」
泣き虫だった頃に戻ったかのようなその声を聴きながら、オレの体はゆっくり崩れ落ちた。
ニナがオレの名前を叫ぶ声がする。
白くなる視界の中で、考えていた。
遠ざけるのが無意味なら、いっそ離れられねェようにすればいい。
その方が、守りやすい。
本当にあいつはオレに近づかなくなった。
コラさんから、あいつが陸上部に入ったと聞いた。
あいつが近くに来なくなったこの半年、俺を取り巻く人間は、
吹っ掛けてくる連中と、遠巻きにするクラスのヤツらと、怯えた風の教師だけになった。
コラさんが締切前で缶詰の廃人になっているとき、オレの世界からは色も動きも消える。
オレの世界は、あいつがいたから色がついていて、動いて見えていたのだと知った。
動きと色がない世界。
医学の本にも興味が湧かなくなって、代わりにあらゆるものに腹が立つようになった。
めちゃめちゃ腹が減る割に体重は減り、夜は眠くならない。
思ったよりもオレ自身は影響を受けていた。
だが。
きっかけがああだっただけで、本当はずっと、
あいつにとってはオレの傍にいないほうがいいと思っていた。
そうすれば喧嘩に巻き込まれてケガすることもない、
本当なら必要のないボクシングを習うこともない、
放課後オレに着いて公園で喧嘩を見物することもない。
そのほうが、いいと。
*
また他校のヤツらに呼び出された。
「よォトラファルガー、こないだはよくもやってくれたなァ」
「ハッ、どれのことだか思い出せねぇな」
「…そんな口きいてられるのも今のうちだぜ?」
リーダー格が後ろの奴に合図を送ると、集団の後ろから女が一人引きずられてきた。
目にした瞬間、心臓を握りつぶされたような気分になった。
「コイツ、お前の大事なオンナなんだろー?」
「へー、わりとイイカラダしてんじゃねェかよ」
男共の浅黒い手がニナの服の上を這いまわる。
唇を噛みしめて体をこわばらせるニナを見た瞬間、全身の血が沸騰した。
次に気づいた時には、他校のヤツらは全員地面に沈んでいて、
怯えた目のニナだけが立っていた。
その怯えが、オレに向けられているように思えて、背を向けた。
全身を支配していたのは恐怖だった。
こうならないために、遠ざけたはずだ。それなのに。
オレのせいで。
心臓がウザいくらいに速くなって、足を一歩出すのも上手くいかない。
その瞬間、後ろからぶつかってくる気配がした。
「っ、ロー、」
振り返らなくてもどんな顔をしているかわかる。
「…恐、かった、」
服を握る手に力がこもる。
「助けてくれて、ありがと、」
泣き虫だった頃に戻ったかのようなその声を聴きながら、オレの体はゆっくり崩れ落ちた。
ニナがオレの名前を叫ぶ声がする。
白くなる視界の中で、考えていた。
遠ざけるのが無意味なら、いっそ離れられねェようにすればいい。
その方が、守りやすい。