番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
<キミと私の29篇・番外編>
今日、12/24は土曜日だ。
「そしたら絶対酔って階段から落ちた頭部外傷が多発するでしょ!!しかも恋人たちの聖夜が土曜日!明日の朝はアフターピルの希望者が殺到する!!そして私たちはオンコールや当直で休めない!!」
「落ち着けやテメェ」
「これが落ち着いていられるか!!」
はあ、と両手に顔を埋めて溜息をつく。
そして、こんな忙しそうな日に、救急の当直も後期研修1年目の同期なのだ。
え、どうすんの。頭部外傷とか何件も来たら。先輩たちみたいなスピードで判断できないんだけど私。2人でパニックになったらヤバい。
「はあ…」
「うるせェな」
「…診療は冷静でいられるようにいま発散してんの」
顔を上げる。クリスマスの装飾がされた患者さんゾーンと違って、スタッフが使う裏側はこんな日でも殺風景というか乱雑だ。
「ユースタス先生は憂鬱じゃないの」
「症例数稼げるならむしろ歓迎だ」
「志がお高いですねえ」
「テメェが低すぎんだよ、ニナ」
「あー、こないだ詰所でも苗字+先生で呼び合いましょうって言われてたのにー」
「あ”?」
「サクライ先生って呼んでみてよ」
この同期、初めて会った時から一度も名字で呼んでくれたことがない。
なんていうか、同期なのに半人前と言われている気がして、実は少し気にしている。
「…呼ぶかバーカ」
「バカは余計」
はあ、とため息をついた私の目の前に、がさりと白い袋が置かれた。
顔を上げてみると同期はそっぽを向いている。
「貰いもんだ。おれは食わねぇからお前処理しとけ」
「え?」
袋を開けるとサンタの飾りのついたショートケーキ。
「わあ、ケーキ!ありがとう!すごい!」
「ハッ、この時間に食べたら太んぞ」
「大丈夫!今日はきっと消費の方が多いから!」
後ろ手に手を振って出ていく背中を見送って、ケーキを冷蔵庫へ運ぶ。
ふと、袋からレシートが落ちた。
不意に購入時間に目が留まる。今から10分前。
…もう日勤の皆さんは帰った時間帯だ。
うそつき。
自分で買ったんだな。
しょうがない、頑張りますか。
冷蔵庫の扉を閉めて、伸びをする。
まずはICUに顔出して、それから救急の詰所に行って。
無事に終わったら素直じゃない同期をご飯にでも誘おうか。
→おまけ(切なめ注意)
「わー…」
「キラキラですねー…」
留学して初めての12月。
ここはドイツ、クリスマスマーケット。
視界が光の海に染まる。
「ニシダ先生は何回目ですか?」
「実は初めてなんです。去年は恋人に会いに遠出していたので」
「そうなんですか」
ちなみにニシダ先生は同僚の男性で、恋人も男性だ。
私とは同じ病院に留学している縁でこうやってたまに一緒に出掛ける。
こっちはカップル文化だから、誰かと出かけるほうが落ち着いて過ごせるという合理的判断だそうだ。
ニシダ先生が写真を撮り始めた。
「恋人さんに送るんですか?」
「あ、えっと…そうです」
「ふふふ、いいですね」
写真を撮り続けるニシダ先生を横目に露店を眺める。
すぐ隣にカラフルな人形屋が立っていた。
目に留まった人形の髪型があまりにも似ていて、私は赤い髪の彼を思い出す。
胸の痛みと共に。
先月、こっちに訪ねてきた。
別れ話をしに。
私はメールやテレビ電話で別れを告げようとしたのだけれど、どうしても顔を見て話すと言ってきかなかったのだ。
3日間一緒に過ごした。
どうしても続けられないことを繰り返し伝えた。
最後に一度だけ体を重ねて、彼はそれを受け入れた。
見送ったらきっと未練が残ってしまう。
出勤がてら最寄り駅まで送って、できるだけ余韻を残さないように去った。
1ヶ月経っても痛みは鮮やかだ。
「サクライ先生はクリスマスはどう過ごすんですか?」
「クリスマス勤務チームに入ったので仕事ですねー」
「お、じゃあ年越しを重視する感じですね?」
「そうですね、母がこっちに来るので、どこかのカウントダウンに行こうかなと思います」
「こっちは派手ですからね」
恋人は、と聞かない日本人の空気読み能力。
こういう時は本当にありがたい。
なんでもつまびらかにすればいいものでもない。
私もスマホを掲げた。
誰に見せるわけでもない写真を撮る。
きっと一度も見返すことなくいつか消してしまうんだろう。
本当にこの風景を見せたい人は、元恋人でも家族でもないのだから。
今日、12/24は土曜日だ。
「そしたら絶対酔って階段から落ちた頭部外傷が多発するでしょ!!しかも恋人たちの聖夜が土曜日!明日の朝はアフターピルの希望者が殺到する!!そして私たちはオンコールや当直で休めない!!」
「落ち着けやテメェ」
「これが落ち着いていられるか!!」
はあ、と両手に顔を埋めて溜息をつく。
そして、こんな忙しそうな日に、救急の当直も後期研修1年目の同期なのだ。
え、どうすんの。頭部外傷とか何件も来たら。先輩たちみたいなスピードで判断できないんだけど私。2人でパニックになったらヤバい。
「はあ…」
「うるせェな」
「…診療は冷静でいられるようにいま発散してんの」
顔を上げる。クリスマスの装飾がされた患者さんゾーンと違って、スタッフが使う裏側はこんな日でも殺風景というか乱雑だ。
「ユースタス先生は憂鬱じゃないの」
「症例数稼げるならむしろ歓迎だ」
「志がお高いですねえ」
「テメェが低すぎんだよ、ニナ」
「あー、こないだ詰所でも苗字+先生で呼び合いましょうって言われてたのにー」
「あ”?」
「サクライ先生って呼んでみてよ」
この同期、初めて会った時から一度も名字で呼んでくれたことがない。
なんていうか、同期なのに半人前と言われている気がして、実は少し気にしている。
「…呼ぶかバーカ」
「バカは余計」
はあ、とため息をついた私の目の前に、がさりと白い袋が置かれた。
顔を上げてみると同期はそっぽを向いている。
「貰いもんだ。おれは食わねぇからお前処理しとけ」
「え?」
袋を開けるとサンタの飾りのついたショートケーキ。
「わあ、ケーキ!ありがとう!すごい!」
「ハッ、この時間に食べたら太んぞ」
「大丈夫!今日はきっと消費の方が多いから!」
後ろ手に手を振って出ていく背中を見送って、ケーキを冷蔵庫へ運ぶ。
ふと、袋からレシートが落ちた。
不意に購入時間に目が留まる。今から10分前。
…もう日勤の皆さんは帰った時間帯だ。
うそつき。
自分で買ったんだな。
しょうがない、頑張りますか。
冷蔵庫の扉を閉めて、伸びをする。
まずはICUに顔出して、それから救急の詰所に行って。
無事に終わったら素直じゃない同期をご飯にでも誘おうか。
→おまけ(切なめ注意)
「わー…」
「キラキラですねー…」
留学して初めての12月。
ここはドイツ、クリスマスマーケット。
視界が光の海に染まる。
「ニシダ先生は何回目ですか?」
「実は初めてなんです。去年は恋人に会いに遠出していたので」
「そうなんですか」
ちなみにニシダ先生は同僚の男性で、恋人も男性だ。
私とは同じ病院に留学している縁でこうやってたまに一緒に出掛ける。
こっちはカップル文化だから、誰かと出かけるほうが落ち着いて過ごせるという合理的判断だそうだ。
ニシダ先生が写真を撮り始めた。
「恋人さんに送るんですか?」
「あ、えっと…そうです」
「ふふふ、いいですね」
写真を撮り続けるニシダ先生を横目に露店を眺める。
すぐ隣にカラフルな人形屋が立っていた。
目に留まった人形の髪型があまりにも似ていて、私は赤い髪の彼を思い出す。
胸の痛みと共に。
先月、こっちに訪ねてきた。
別れ話をしに。
私はメールやテレビ電話で別れを告げようとしたのだけれど、どうしても顔を見て話すと言ってきかなかったのだ。
3日間一緒に過ごした。
どうしても続けられないことを繰り返し伝えた。
最後に一度だけ体を重ねて、彼はそれを受け入れた。
見送ったらきっと未練が残ってしまう。
出勤がてら最寄り駅まで送って、できるだけ余韻を残さないように去った。
1ヶ月経っても痛みは鮮やかだ。
「サクライ先生はクリスマスはどう過ごすんですか?」
「クリスマス勤務チームに入ったので仕事ですねー」
「お、じゃあ年越しを重視する感じですね?」
「そうですね、母がこっちに来るので、どこかのカウントダウンに行こうかなと思います」
「こっちは派手ですからね」
恋人は、と聞かない日本人の空気読み能力。
こういう時は本当にありがたい。
なんでもつまびらかにすればいいものでもない。
私もスマホを掲げた。
誰に見せるわけでもない写真を撮る。
きっと一度も見返すことなくいつか消してしまうんだろう。
本当にこの風景を見せたい人は、元恋人でも家族でもないのだから。
1/1ページ