本編
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「…へ?」
え、振られるんじゃないの?
あーあれか、どっきり大成功的なやつ。
視線だけでちらりと部屋を見渡す。
「残念だがカメラもないしペンギンたちもいないぞ」
「…そう」
え?ローが?
非合理な社会通念に石を投げそうなこの人が?
私と家族になろうとしてる?
それって…結婚ってことだよね?
「…ローは、私と…結婚したいってこと?」
「あァ」
「…どうして急に」
ローは手元に視線を落とした。
傷ついた時に似た、少し悲しそうな横顔が目に映る。
「倒れたって連絡、おばさんには行ったんだろ。
もしうちの病院じゃなかったら、おれは知らないままだったかもしれない。
お前に何かあった時に、おれが知らないままなのは許せねェと思った」
ローの視線が正面を見据える。
「正直、自分の人生で結婚するつもりはなかったし、
”結婚しないと半人前”みてェのはクソくらえと思っていた。
ただ、お前とはこのままお互いが飽きるまで暮らしていけるとも感じていた」
ローが体ごと捻ってこちらを向いた。こんな時でもこの人の目は揺るがない。
だけど私はもう知ってしまった。
この瞬間を揺るがずにいるためにどれだけの時間を重ねる人なのかを。
自信があるように見えて、それは努力して覚悟を決めただけなのだということ。
そうか。
最近静かだったのは、覚悟を決める準備期間だったからなのか。
「幸せにすると言えるほど、おれはお前に何か与えられるとは思っていない。
ただ、おれが今まで生きてきた中で幸せだと思えたのは、お前と居る時ばかりだった」
ローが何かを差し出した。
キラリと光った気がしたけれど、私はローから目が離せないでいる。
「おれが飽きるまで隣に居ろ」
それ普通、飽きるまで傍にいてあげる、って言うとこでしょう。
ほんと、こんな時までローらしい。
心の中で少し笑って目尻を拭う。
いつの間にか私は泣いていた。
「私が嫌になるまで手放してあげないからね」
*
一年前にローが差し出したキラキラは、私の左手に収まっている。
今日、私とローは結婚式を挙げる。
「どう?」
「…ま、悪くねェな」
「もっと褒めてよ」
「強いて言えば」
ローが耳飾りのギリギリに唇を寄せた。
「今まで見た中で一番キレイだな」
「、っ、そんなにベタに来ると思わなかった」
「真っ赤じゃねェか、化粧直してもらえよ」
「っもうー!」
「ではご新郎様こちらへ」
踵を返す後姿に思わず声をかける。
「ロー」
振り返ったローも、今までで一番カッコいい。
「ありがとう」
「…まだ早いだろ」
きっと今日を、私は一生忘れない。
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