本編
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あの日、初めて恋人になったにしては随分と知り尽くした夜を過ごした。
あれから2年が経つ。
売り言葉に買い言葉で恋人になったから、最初の頃はよく疑心暗鬼になった。
1年経つ頃ようやく、この人は私のことを好きでいてくれるのかもなぁと思うようになった。
そんな最中、珍しく私は激務に見舞われていた。
常勤医の三分の一がインフルにやられ、残った人数でカバーしていたら、気胸(肺に勝手に穴が開く病気)と貧血を同時に起こして倒れた。
私が入院しているのを、ローは病棟回診の時に知ったそうだ。
知られたことを知った時、私の脳裏には青筋を立てて詰め寄るローが浮かんだ。
あれだけ「食え」「寝ろ」「休め」と言われて、連絡なしに倒れたのだから、それはそれは怒るだろうと。
でも、病室に来た日、ローは怒らなかった。
全く怒られない。何も言われない。むしろ恐怖を感じるくらいに静か。なんなら目すら合わない。
違和感を感じて色々と頭を捻った結果、私は思った。
…これはきっと振られるんだ。
自己管理ができないヤツは手元に置いておけないとかで。
*
退院の前日には覚悟を決めていた。
泣くのは病室で済ませて、ちゃんと笑顔で受け入れられるように。
退院は土曜日にした。
ローが迎えに来ると言って譲らなかったからだ。
車の中では二人ともほとんど喋らなかった。
荷物を全部持ってもらってエレベーターを上がる。
その荷物もひとつ残らずローが持ってきてくれたもの。
これまで、職場で私達の関係を知る人は少数だったけど、今回のことでかなり公に知れ渡ってしまった。
この状態で失恋するのはキツイ。
長めの休みをもらって旅行でも行こうかと、旅行先について調べたりもした。
1週間ぶりの我が家は思ったよりきれいだった。
「あれ、ローあんまりこっち使ってなかったんだね」
白々しく言葉をつなぐ。言うなら早く言って欲しい。
返答がないのに気づいて振り返る。
ローは黙ってこっちを見ていた。
「…座らねえのか。疲れたろ」
「あ、うん、そうだね」
座った私にひざ掛けを渡してローがキッチンへ向かう。
彼も医者だ、気胸と貧血が女性の周期に起因して発生したと気づいているのだろう。
「何にする」
「コーヒー」
「却下。カフェインねぇのにしろ」
「…じゃあほうじ茶」
ローがお湯を注ぐ、こぽこぽという音ひとつにも緊張感が増す。
「ありがとう」
こんな状況でも温かいお茶にはリラックス効果があるものだ。
ローが隣に座る。
「なァ」
「はい」
「まどろっこしいのは時間の無駄だ、手短に言う」
来た。
ちゃんと目を見て聞こう。最後に焼き付けておかなくちゃ。
ローが一度長めに息を吐いた。
「俺と家族になってくれ」
あれから2年が経つ。
売り言葉に買い言葉で恋人になったから、最初の頃はよく疑心暗鬼になった。
1年経つ頃ようやく、この人は私のことを好きでいてくれるのかもなぁと思うようになった。
そんな最中、珍しく私は激務に見舞われていた。
常勤医の三分の一がインフルにやられ、残った人数でカバーしていたら、気胸(肺に勝手に穴が開く病気)と貧血を同時に起こして倒れた。
私が入院しているのを、ローは病棟回診の時に知ったそうだ。
知られたことを知った時、私の脳裏には青筋を立てて詰め寄るローが浮かんだ。
あれだけ「食え」「寝ろ」「休め」と言われて、連絡なしに倒れたのだから、それはそれは怒るだろうと。
でも、病室に来た日、ローは怒らなかった。
全く怒られない。何も言われない。むしろ恐怖を感じるくらいに静か。なんなら目すら合わない。
違和感を感じて色々と頭を捻った結果、私は思った。
…これはきっと振られるんだ。
自己管理ができないヤツは手元に置いておけないとかで。
*
退院の前日には覚悟を決めていた。
泣くのは病室で済ませて、ちゃんと笑顔で受け入れられるように。
退院は土曜日にした。
ローが迎えに来ると言って譲らなかったからだ。
車の中では二人ともほとんど喋らなかった。
荷物を全部持ってもらってエレベーターを上がる。
その荷物もひとつ残らずローが持ってきてくれたもの。
これまで、職場で私達の関係を知る人は少数だったけど、今回のことでかなり公に知れ渡ってしまった。
この状態で失恋するのはキツイ。
長めの休みをもらって旅行でも行こうかと、旅行先について調べたりもした。
1週間ぶりの我が家は思ったよりきれいだった。
「あれ、ローあんまりこっち使ってなかったんだね」
白々しく言葉をつなぐ。言うなら早く言って欲しい。
返答がないのに気づいて振り返る。
ローは黙ってこっちを見ていた。
「…座らねえのか。疲れたろ」
「あ、うん、そうだね」
座った私にひざ掛けを渡してローがキッチンへ向かう。
彼も医者だ、気胸と貧血が女性の周期に起因して発生したと気づいているのだろう。
「何にする」
「コーヒー」
「却下。カフェインねぇのにしろ」
「…じゃあほうじ茶」
ローがお湯を注ぐ、こぽこぽという音ひとつにも緊張感が増す。
「ありがとう」
こんな状況でも温かいお茶にはリラックス効果があるものだ。
ローが隣に座る。
「なァ」
「はい」
「まどろっこしいのは時間の無駄だ、手短に言う」
来た。
ちゃんと目を見て聞こう。最後に焼き付けておかなくちゃ。
ローが一度長めに息を吐いた。
「俺と家族になってくれ」