膨大な仕事のメールを尻目にインターネットを開き、入力し慣れたキーワードで一つのホームページを探し出す。
ここ最近、深夜の更新が多く心配していた。

「朝日焼く／見えない袖を／振る君を

大切な人が見送りに来てくれたのを、気付かないふりしてゲートをくぐりました。
これから生活時間帯が変わります。更新は早朝から午前中になる予定です。
どうぞよろしくお願いします。」


ロー達に置手紙をして家を出てから一カ月ほど経ったころ、事務所に一通の手紙が届いた。
ファンレターを模したその封筒の筆跡ですぐにニナが書いたのだと分かった。

「いつも先生の小説を感慨深く読ませていただいています。
先生の作品に影響を受けて、私も短歌と俳句の手習いを始めました。
いつか自分の作った作品を広い海に流して、それが先生のお目に触れることがあったなら、
それ以上の幸せはありません。
毎年この時期になると夏風邪をひく人が周りに居りますので、気を付けておりますが、
先生もどうぞお体を壊されませんようご自愛ください。」

「広い海」がインターネットのことだと気づき、書き添えられていた俳名を検索すると、手紙の投函日に開設されたホームページを見つけた。
それ以来、定期的に見に来ている。

ニナもローや自分の近況を知らせるつもりで書いているらしく、一見ただの短歌でも単語の組み合わせや季語となる花の花言葉がメッセージになっていることが多かった。
2人して試験に合格し、医師になったはずだからきっと多忙を極めているだろうに、その筆まめさは称賛するしかない。

もう一度、画面に目を落とす。
「袖を振る」は別れを惜しむ、愛情を示すことを表す行為。
見えない袖。
朝日。
旅立ちか、ニナ。


「…頑張れよ」