本編
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最近入った外科医の腕があまり高くなく、そのミスを擦り付けられる日々が続いていた。
完璧にやってもミス扱いになり、プレッシャーが重い。
そんな毎日を過ごして、ある日ついにトイレで吐いた。
病院のトイレで嘔吐しながら、ああ吐き終わったら感染対策委員会に電話しなきゃ、
原因を問われるな、昼何食べたっけ、最近薬飲んでないし、と考えていた。
ひとまず今日は帰らされるだろう。
嘔吐。28歳女性。…妊娠を疑う所見…?
…いや、ないな。
そもそもしばらく、来てないもの。
ふと、力が抜けた。
このままだと。
私、女としての機能を失うんじゃないだろうか。
こみ上げる吐き気に、またトイレに向き合いながら、そんなことを考えていた。
*
久しぶりにコーヒーを豆から挽いて抽出した。
「…留学だァ?」
「うん」
キッドが目を丸くする。当然だ。
半同棲中の彼女が突然外国に飛び出すなんて言い出したら。
「突拍子もねぇこと言い出してんじゃねえよ」
「私が突拍子がない奴だって知ってたでしょう?」
目を伏せて、コーヒーをすする。
「…おいしい」
「…」
下から覗き込むように彼の目を見る。
赤みがかった虹彩が、一瞬こちらを向いて、ふっと逸らされた。
「理由は」
「…技術の研鑽と専門性の向上」
「そんな外向きの理由が知りたいんじゃねェんだよ」
「…そうだよね」
もうひとくち、コーヒーをすする。
コーヒーを味わって飲むなんてこと、最近していなかった。
これは、覚醒するための薬だった。
「このまま行くと私、2年後にはドクターを辞めてる気がした」
「…」
「ドクターで居続けるために、場所を変える必要があると思った」
「…お前にとって」
キッドの赤い目が、私を射抜くのが分かった。
「ドクターで居続けることが、一番大切なことなのか」
“俺と居ることよりも”
キッドが本当に言いたいのは、“言わなかった”ところだ、と思った。
“お前、医者になれ”
「…っわかんない」
あの日の約束と、目の前の男を、一瞬自分の中で天秤にかけた。
想像の中の天秤がまだ揺れているうちに、私は考えるのを放棄した。
気が付くと、キッドの腕の中にいた。
荒々しい唇が降ってきて、体が必死に応える。
引き止めたい気持ちと、相手を尊重する気持ちの間で葛藤する恋人を、
心はまるで他人事のように、ぼんやりと眺めていた。
完璧にやってもミス扱いになり、プレッシャーが重い。
そんな毎日を過ごして、ある日ついにトイレで吐いた。
病院のトイレで嘔吐しながら、ああ吐き終わったら感染対策委員会に電話しなきゃ、
原因を問われるな、昼何食べたっけ、最近薬飲んでないし、と考えていた。
ひとまず今日は帰らされるだろう。
嘔吐。28歳女性。…妊娠を疑う所見…?
…いや、ないな。
そもそもしばらく、来てないもの。
ふと、力が抜けた。
このままだと。
私、女としての機能を失うんじゃないだろうか。
こみ上げる吐き気に、またトイレに向き合いながら、そんなことを考えていた。
*
久しぶりにコーヒーを豆から挽いて抽出した。
「…留学だァ?」
「うん」
キッドが目を丸くする。当然だ。
半同棲中の彼女が突然外国に飛び出すなんて言い出したら。
「突拍子もねぇこと言い出してんじゃねえよ」
「私が突拍子がない奴だって知ってたでしょう?」
目を伏せて、コーヒーをすする。
「…おいしい」
「…」
下から覗き込むように彼の目を見る。
赤みがかった虹彩が、一瞬こちらを向いて、ふっと逸らされた。
「理由は」
「…技術の研鑽と専門性の向上」
「そんな外向きの理由が知りたいんじゃねェんだよ」
「…そうだよね」
もうひとくち、コーヒーをすする。
コーヒーを味わって飲むなんてこと、最近していなかった。
これは、覚醒するための薬だった。
「このまま行くと私、2年後にはドクターを辞めてる気がした」
「…」
「ドクターで居続けるために、場所を変える必要があると思った」
「…お前にとって」
キッドの赤い目が、私を射抜くのが分かった。
「ドクターで居続けることが、一番大切なことなのか」
“俺と居ることよりも”
キッドが本当に言いたいのは、“言わなかった”ところだ、と思った。
“お前、医者になれ”
「…っわかんない」
あの日の約束と、目の前の男を、一瞬自分の中で天秤にかけた。
想像の中の天秤がまだ揺れているうちに、私は考えるのを放棄した。
気が付くと、キッドの腕の中にいた。
荒々しい唇が降ってきて、体が必死に応える。
引き止めたい気持ちと、相手を尊重する気持ちの間で葛藤する恋人を、
心はまるで他人事のように、ぼんやりと眺めていた。