本編
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「コラさんから返事がない」
「いつから?」
「先週の火曜日からだ」
「え、もう10日も経ってるじゃん」
「ニナ、車出せ。家を見に行く」
「…今から!?」
「明日には着くだろ」
たまたま授業のない金曜日、運よく飛行機のチケットが取れて、車で片道2時間の空港までの距離を走る。
途中で調べたら、コラさんが持ってる連載が全てストップしていることが分かった。
茶碗や花瓶は落としても、原稿だけは絶対に落とさなかったコラさんが。
最寄りの駅から出たときには雨が降り出していた。
高校時代、飽きるほど歩いた道を無言で進み、ものの5分で家に着く。
ローが玄関の鍵を開けた。
ゆっくりとドアノブを回す。
背中越しに見えた廊下の空気の温度で即座に理解した。
コラさんは、ここにはいない。
家を見て回るとダイニングに置手紙があった。
コラさん得意の丸文字で、殴り書かれたそれ。
“ローへ
急に居なくなって済まない。
お前は自由に生きろ。
ニナへ
ローのこと、頼んだ。
お前は小説より短歌とか川柳向きだと思うぞ。
お前たちのコラさんより“
不意に、窓の外の光がゆがむ。
目をやると、ローが窓を開けて雨降る庭に出ていた。
コラさんが使っていたサンダルをつっかけて、夕立のカーテンの中を進む。
そして、いつもコラさんが日光浴をしていたベンチの前でローの足は止まった。
土砂降りの中、どのくらいそうしていただろう。
永遠にそのままじゃないだろうか、と思うほどローは身動き一つしなかった。
でも、ある時ローはくっきりとこちらを振り返った。
その瞬間の目を、私は生涯忘れないと思う。
世界にローと私しかいないみたいだった。
初めて人間を発見したようにひどく臆病な、でも縋り付くような、
あるいは迷子の子供が母親に向けるような目だった。
そして、その目と合った時に思った。
あまりにも重たいものを共有しようとしている。
それを共有したら、この人と普通の形で思いが通じることは、きっともうないだろう。
それでも、
私は彼に向けて、手を伸ばさずにはいられなかった。
昔、一緒にうたた寝したソファでローに抱かれながら、
あの頃から無意識に抱いていた恋が、死んでいくのがわかった。
それでもいい。
この人の心を守るためなら、私の最初で最大の恋が消えたとしても。
「いつから?」
「先週の火曜日からだ」
「え、もう10日も経ってるじゃん」
「ニナ、車出せ。家を見に行く」
「…今から!?」
「明日には着くだろ」
たまたま授業のない金曜日、運よく飛行機のチケットが取れて、車で片道2時間の空港までの距離を走る。
途中で調べたら、コラさんが持ってる連載が全てストップしていることが分かった。
茶碗や花瓶は落としても、原稿だけは絶対に落とさなかったコラさんが。
最寄りの駅から出たときには雨が降り出していた。
高校時代、飽きるほど歩いた道を無言で進み、ものの5分で家に着く。
ローが玄関の鍵を開けた。
ゆっくりとドアノブを回す。
背中越しに見えた廊下の空気の温度で即座に理解した。
コラさんは、ここにはいない。
家を見て回るとダイニングに置手紙があった。
コラさん得意の丸文字で、殴り書かれたそれ。
“ローへ
急に居なくなって済まない。
お前は自由に生きろ。
ニナへ
ローのこと、頼んだ。
お前は小説より短歌とか川柳向きだと思うぞ。
お前たちのコラさんより“
不意に、窓の外の光がゆがむ。
目をやると、ローが窓を開けて雨降る庭に出ていた。
コラさんが使っていたサンダルをつっかけて、夕立のカーテンの中を進む。
そして、いつもコラさんが日光浴をしていたベンチの前でローの足は止まった。
土砂降りの中、どのくらいそうしていただろう。
永遠にそのままじゃないだろうか、と思うほどローは身動き一つしなかった。
でも、ある時ローはくっきりとこちらを振り返った。
その瞬間の目を、私は生涯忘れないと思う。
世界にローと私しかいないみたいだった。
初めて人間を発見したようにひどく臆病な、でも縋り付くような、
あるいは迷子の子供が母親に向けるような目だった。
そして、その目と合った時に思った。
あまりにも重たいものを共有しようとしている。
それを共有したら、この人と普通の形で思いが通じることは、きっともうないだろう。
それでも、
私は彼に向けて、手を伸ばさずにはいられなかった。
昔、一緒にうたた寝したソファでローに抱かれながら、
あの頃から無意識に抱いていた恋が、死んでいくのがわかった。
それでもいい。
この人の心を守るためなら、私の最初で最大の恋が消えたとしても。