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本編

何かが決壊して号泣しながら、雨が降る道を走る。
不意に曲がり角で人にぶつかった。

「っごめんなさっ」
「あ?カズ?」

なんで。
学校からも道場からも家からも遠いこの場所に、

「…なんで、ゾロ…?」
「…お前、どうした」

低い、低い声。
あの時と同じくらいの温度を、表に出すのではなく内に押し込めたような。
きっと、あたしの服をみて何が起きたか分かっているだろうな、と他人事のように思った。

「…」
「っだから!!」

体がビクッと震えた。

「俺達と一緒に居ろって言っただろうが!!!」

硬直した頭と体で必死に考える。

なんでゾロは怒ってるんだ。
一緒に居ろっていつの話だ。
どうしてあたしはゾロの腕の中にいるんだ。



ゾロの部屋でコーヒーを飲んでいる。
ここも男の部屋だな、一日で2人の部屋に入ったわけだ、と自嘲気味に考える。
あんなことがあった後で、でもゾロを警戒するかどうか考えるのは、もう億劫だった。
なるようになれ。
あんな男に傷つけられるくらいなら、同じ傷でもゾロからの方がマシだ。

「なにがあった」
「ゾロ怒るだろ」
「…いいから話せ」
「…靴擦れして手当するって部屋に連れ込まれて未遂に終わった、
 今めっちゃ反省と自己嫌悪してるから怒るなら後にしてくれ」
「…ッ、…ケガは」
「顔殴られたぐらい」

ゾロがあたしの顔に手を伸ばして口の端に触った。
ぐ、とゾロの感情の内圧が高まるのが分かる。
昔はこういう時に怒鳴ったり暴れたりしていたのに、大人になったなあと思った。



「ろくでもねえ男ばっか引っ掛けやがって」
「いや…言い方…」
「せめてサガと一緒に居りゃあ良かったのによ」
「なんでサガ出てくんの」
「…お前、あいつといる時は女ぶるじゃねえか」
「…」
「…カズ?」
「女ぶる、か」

指先を見る。コーラルピンクのグラデーション。別に好きでもないけど、ネイルのお姉さんに似合うと言われた色。

「女ぶっても、いいことあんま無かったかもな。こんな目には合うし、見くびられるし」

あたしは何をしようとしていたんだろう。
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