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本編

生活から剣道が無くなって、することが何もなくなった。
することがある人をうらやんだりした。

途中から、なら女にしかできないことをしてみようと思うようになった。
あごより短かった髪を伸ばして、雑誌を買ってメイクを覚えて、男の子にはできない服、しぐさ、言葉遣いを身に着けた。
あの時あれだけ剣道を辞めることに反対した母さんは、「カズミもやっぱり女の子だったのね」「私、娘とショッピング行くのが夢だったの」と幸福そうにしていて、多すぎるくらいのメイク道具や服を買ってくれた。

それは、ある意味で世界への復讐だった。
もし女を超えようとすることが罪なら、あたしは「女を演じる」ことで、世界を欺いてやる。

本当のあたしは変わらない。男言葉を使う、強くなりたいあたしのまま。



「男の部屋に上がったんだからOKってことじゃん?」

馬乗りになった男が言う。
この家に上がったのは、19歳の誕生日にとこの男に贈られた靴のサイズが合ってなくて、靴擦れを起こしたのを「オレの責任だから手当てさせて!」と押し切られたからだ。

そういうことか。全部策略のうちか。

「私、そういうつもりで来たんじゃないのに」
「今更そんなこと言っても遅いでしょ」
「っやだ!!」

押しのけようにもポジションが悪すぎる。
襟を掴まれたまま体をひねって抵抗したから、首元が破れた。
頭に衝撃が走る。顔を殴られたとわかった時には床に倒れていた。

「ハッ、バカだろお前」
「…」
「男に力で勝てるわけないじゃん」

ブチ、と何かが切れる音がした。
次の瞬間、視界に棒状のものを認識したところまで覚えている。

気が付くとあたしは傘を構えて「面はデコが割れるな…胴の方がマシか…」と呟いていて、
土下座する男の手は、あたしが撃ち込んだ小手で真っ赤にはれ上がっていた。

「っごめんなさいいい!!!」

叫びに合わせて傘を振り下ろす。
ぎゃあ、という叫びとともに男は気絶した。
手元には曲がった傘、床には大きな傷。

「二度と近寄るな」

傘を男の脇に捨て、荷物を持って男の家を飛び出した。
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