光を失ってから取り戻すまで
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花の香りが心地よかった。
墓標の前に座り込んだまま、半日は経っただろうか。
話すことが多すぎて、気が付くと夕暮れになっていた。
街に戻り、宿に直行しても寝付けないだろうと近くの酒屋に足を運ぶ。
カウンターで飲んでいると隣に線の細い男が座った。
「ここ、空いてますか」
席という意味なら空いているけど、私の隣という意味なら空いてはいない。
「…さあ、どうでしょうね」
興味をそそられないことを全面に出して返答すると男は吹き出した。
「あなたはお綺麗な上に面白い人だ」
面倒な気もしたが、暇つぶしにはもってこいかと思い直して軽い会話を楽しむ。
3つ目のグラスが空いた頃、男が声のトーンを変えて言葉を紡いだ。
「最近、恋はしている?」
面倒な話題だ、と思った。
「いいえ」
「いつからしていないの?」
「…2年前から」
男の目が猛禽類のような光を放つ。
「そろそろ恋したくはならない?」
陳腐だな。くだらないな。そう思った。
「私が恋できるのは後にも先にも一人だけよ」
「…そうなんだ」
「ええ」
頂上戦争が終わって最初に目を覚ました時、もう二度と恋はできないと思った。
世界のどこかに生きていることが涙が出るほど嬉しいって感覚は、きっとあの人に対してしか持てない。
「僕はしているよ」
こういう話のくだりになるのか、と遠目に眺めるように思う。
「そう」
「そう、今ね」
カウンターに置いた私の手に男が手を重ねようとするのが分かったから、直前に腕を組んだ。
男の手が何もないカウンターに置かれる。
「辞めといたほうが身のためだと思うわ」
「どうして?」
「右腕切断、腹部の刺し傷、複数箇所の骨折、あとは毒と…大量出血の後遺症が体に残ることになるわよ」
今まで私の中に貯めてきた、大切な人たちのダメージ。
「…何を…言っているんだ?」
「マスター、お会計」
「はいよ」
席を立つ。背筋を伸ばして店を後にする。
「ねえ、」
男の声が追いかけてきた。
「せめて今夜だけ、」
「恋がなくても抱かれることはできるけれど」
振り返る。最上級の”悪い笑み”を浮かべた。
「口説くにしても懸賞金が4億超えてからにして」
墓標の前に座り込んだまま、半日は経っただろうか。
話すことが多すぎて、気が付くと夕暮れになっていた。
街に戻り、宿に直行しても寝付けないだろうと近くの酒屋に足を運ぶ。
カウンターで飲んでいると隣に線の細い男が座った。
「ここ、空いてますか」
席という意味なら空いているけど、私の隣という意味なら空いてはいない。
「…さあ、どうでしょうね」
興味をそそられないことを全面に出して返答すると男は吹き出した。
「あなたはお綺麗な上に面白い人だ」
面倒な気もしたが、暇つぶしにはもってこいかと思い直して軽い会話を楽しむ。
3つ目のグラスが空いた頃、男が声のトーンを変えて言葉を紡いだ。
「最近、恋はしている?」
面倒な話題だ、と思った。
「いいえ」
「いつからしていないの?」
「…2年前から」
男の目が猛禽類のような光を放つ。
「そろそろ恋したくはならない?」
陳腐だな。くだらないな。そう思った。
「私が恋できるのは後にも先にも一人だけよ」
「…そうなんだ」
「ええ」
頂上戦争が終わって最初に目を覚ました時、もう二度と恋はできないと思った。
世界のどこかに生きていることが涙が出るほど嬉しいって感覚は、きっとあの人に対してしか持てない。
「僕はしているよ」
こういう話のくだりになるのか、と遠目に眺めるように思う。
「そう」
「そう、今ね」
カウンターに置いた私の手に男が手を重ねようとするのが分かったから、直前に腕を組んだ。
男の手が何もないカウンターに置かれる。
「辞めといたほうが身のためだと思うわ」
「どうして?」
「右腕切断、腹部の刺し傷、複数箇所の骨折、あとは毒と…大量出血の後遺症が体に残ることになるわよ」
今まで私の中に貯めてきた、大切な人たちのダメージ。
「…何を…言っているんだ?」
「マスター、お会計」
「はいよ」
席を立つ。背筋を伸ばして店を後にする。
「ねえ、」
男の声が追いかけてきた。
「せめて今夜だけ、」
「恋がなくても抱かれることはできるけれど」
振り返る。最上級の”悪い笑み”を浮かべた。
「口説くにしても懸賞金が4億超えてからにして」
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