「わぁ！」

出会い頭にパッと顔を輝かせた彼女は、飛ぶような勢いで私たちの元へ駆け寄ってきた。

「サボ！！…コアラちゃん？」

なんで疑問形なんだろう、と考えてからすぐ、彼女が以前盲目だったことを想いだした。

「レイラ！見えるようになったのか？」
「うん！」

サボくんの顔を両手で包んで花咲くような笑顔。

「わーサボ、ほんとにカッコよくなった！」
「だから言ったろ」
「王子様って感じね！」
「ハハ、それは言い過ぎだ」

ふと違和感を感じて考える。
二人の距離が近すぎる気がする。
レイラちゃんの手はサボくんの顔に、サボくんの手はレイラちゃんの腰に。
…腰に？

「ねえ、二人とも」
「「ん？」」
「密着しすぎじゃない？」

ぱちくり、と同じように目を丸くした2人は互いの顔を見て首を傾げた。

「そんなことないだろ」
「うん」
「いやいやいや」
「ルフィともこんな感じだもんね？」
「いや、あいつの方がもっと密着するな」
「ルフィ君と同じに考えちゃダメでしょ…」

＊

「サボくん、変わったと思う」
「…変わった？」
「思い出す前と今とで」
「…思い出す前のサボって、こう…無敵な感じじゃなかった？」
「無敵…」
「恐いもの知らずっていうか…少年がそのまま大きくなったって言うか」
「あ、そう！そんな感じ！」
「…私の知ってるサボも、そんな子だよ」

コアラちゃんが息を呑む。

「元の性格は変わらないけど、私は今のサボの方がいい男だと思うな」
「…そっか」

＊

ノックの音に顔を上げる。
外から掛けられる声は子供のころから良く知る声だった。

「お仕事？」
「いや、別に今しなくてもいい」
「それ、コアラちゃんが聞いたら怒りそうね」

部屋に入ってきて横に立つレイラに体を向ける。
スッと左目に手が伸ばされる。

「ここ、こんな感じだったんだね」

柔らかい手が労わるように目の周りを撫でる。

「目立つだろ」
「んー、そうね」

ヤケドの跡を隠す髪をよけて、レイラはにっこり笑った。

「男の子は顔に傷がある方が魅力的に見えるのよ？」

一瞬呆気にとられた後、笑いがこみ上げる。
そうだ、こういう奴だった。

「ヤケドでもか」
「うん、ヤケドでも」

くつくつ笑う互いの声が夜の闇に溶ける。


「見えるようになって良かったな」
「うん。サボの顔、覚えていられるからね」