私が22歳だったころ
夢小説設定
体が跳ねて飛び起きた。
悪夢を見ていた気がする。思い出したくもねェような。
無意識に大きく息を吐く。
誰も起こしてないことを確認してキッチンへ向かい、水を飲みながらひとつひとつ言い聞かせる。
大丈夫だ、俺はこの船のコックだ。
俺は、自由だ。
俺の父親は、赫足のゼフだ。
不意にドアが開いた。
月光を背に受けて金色が光る。
「…レイラ、ちゃん?」
疑問形になったのは、あまりの神々しさに本当の天使が舞い降りたかと思ったからだ。
普段使う例えではない、この世のものとは思えない美しさ。
「…サンジくん」
一瞬失いかけた自分を取り戻して、いつもの笑顔を浮かべる。
「どうしたんだい?のどでも乾いた?」
こちらに近づいてくる影は何も言わない。
笑っている気配もない。
ただ、やたらと真摯でまっすぐな瞳が向けられていることだけが分かった。
「…怖い夢。」
「…え?」
「怖い夢、見た?」
一瞬、心臓が止まった。
透明な瞳がきれいすぎて魂を持っていかれるかと思った。
それでもなんとか笑顔を形作る。
「…ハハ、プリンセスに心配されてるようじゃ、俺もまだまだだな」
「…」
「眠れないプリンセスに、温かい飲み物でもプレゼントしようか?」
レイラちゃんが溜息のような息を吐いた。
ゆっくりと俺の手首をつかむ。
「…レイラちゃん?」
ソファの前まで連れて来られて、中央に座らされる。
困惑した目を向けるものの、彼女は涼しい顔で右の端に座った。
伸びてくる手が首にかかり、ゆっくりと引かれて上体が倒れる。
倒れた先は彼女の膝の上だった。
急に事態を理解した体が最大限に緊張する。
「っ…!レイラちゃん、どうしたの急に、」
「静かにして、みんな起きる」
「いやでも、これはちょっと、いや嬉しいんだけどよ、」
「喋らないで」
柔らかい手が俺の口をふさぐ。
ついでのように、彼女の肩を守っていた毛布が俺の体にかけられる。
もう片方の手が俺の髪を撫で始めた。
「…きっと部屋に戻っても、もう眠れないと思うの」
「…」
「それならこうしてるのも、いいんじゃないかな」
柔らかい手のぬくもりが頭の芯に伝わる。
いつかの、遠い遠い昔の、記憶。
「大丈夫」
薄れゆく意識の中で、彼女の声を聴いた。
「次は絶対、いい夢が見られるから」
*
なかなか強情な人だ。
完全にバレているのに、踏み込ませてくれないのだから。
目を閉じて眠りの中に意識を半分潜り込ませる。
母親の記憶、ぬくもり、笑顔、言葉。
時間通りたどると途中から悲しい記憶になってしまうから。
一番温かい場面でその記憶は終わらせる。
一転してにぎやかな記憶。
子供の頃から育った海上レストラン。
父と慕うあの人。
日々の陽気な繰り返し。
そして、この船。
朝日が昇る頃にここに来る。
仲間ひとりひとりのことを考えながら、目の前の食材に向き合う。
この人だけに許された最高に幸福な時間。
誰かのことを想って、何かをすることの、尊さ。
自分の体に残してきた半分の自我が泣きそうになっている。
幸せなのね、この船のコックで居られて。
これから先も、ずっとその時間が続くように、いつの間にか私は祈っていた。
信じてもいない神に向かって。
悪夢を見ていた気がする。思い出したくもねェような。
無意識に大きく息を吐く。
誰も起こしてないことを確認してキッチンへ向かい、水を飲みながらひとつひとつ言い聞かせる。
大丈夫だ、俺はこの船のコックだ。
俺は、自由だ。
俺の父親は、赫足のゼフだ。
不意にドアが開いた。
月光を背に受けて金色が光る。
「…レイラ、ちゃん?」
疑問形になったのは、あまりの神々しさに本当の天使が舞い降りたかと思ったからだ。
普段使う例えではない、この世のものとは思えない美しさ。
「…サンジくん」
一瞬失いかけた自分を取り戻して、いつもの笑顔を浮かべる。
「どうしたんだい?のどでも乾いた?」
こちらに近づいてくる影は何も言わない。
笑っている気配もない。
ただ、やたらと真摯でまっすぐな瞳が向けられていることだけが分かった。
「…怖い夢。」
「…え?」
「怖い夢、見た?」
一瞬、心臓が止まった。
透明な瞳がきれいすぎて魂を持っていかれるかと思った。
それでもなんとか笑顔を形作る。
「…ハハ、プリンセスに心配されてるようじゃ、俺もまだまだだな」
「…」
「眠れないプリンセスに、温かい飲み物でもプレゼントしようか?」
レイラちゃんが溜息のような息を吐いた。
ゆっくりと俺の手首をつかむ。
「…レイラちゃん?」
ソファの前まで連れて来られて、中央に座らされる。
困惑した目を向けるものの、彼女は涼しい顔で右の端に座った。
伸びてくる手が首にかかり、ゆっくりと引かれて上体が倒れる。
倒れた先は彼女の膝の上だった。
急に事態を理解した体が最大限に緊張する。
「っ…!レイラちゃん、どうしたの急に、」
「静かにして、みんな起きる」
「いやでも、これはちょっと、いや嬉しいんだけどよ、」
「喋らないで」
柔らかい手が俺の口をふさぐ。
ついでのように、彼女の肩を守っていた毛布が俺の体にかけられる。
もう片方の手が俺の髪を撫で始めた。
「…きっと部屋に戻っても、もう眠れないと思うの」
「…」
「それならこうしてるのも、いいんじゃないかな」
柔らかい手のぬくもりが頭の芯に伝わる。
いつかの、遠い遠い昔の、記憶。
「大丈夫」
薄れゆく意識の中で、彼女の声を聴いた。
「次は絶対、いい夢が見られるから」
*
なかなか強情な人だ。
完全にバレているのに、踏み込ませてくれないのだから。
目を閉じて眠りの中に意識を半分潜り込ませる。
母親の記憶、ぬくもり、笑顔、言葉。
時間通りたどると途中から悲しい記憶になってしまうから。
一番温かい場面でその記憶は終わらせる。
一転してにぎやかな記憶。
子供の頃から育った海上レストラン。
父と慕うあの人。
日々の陽気な繰り返し。
そして、この船。
朝日が昇る頃にここに来る。
仲間ひとりひとりのことを考えながら、目の前の食材に向き合う。
この人だけに許された最高に幸福な時間。
誰かのことを想って、何かをすることの、尊さ。
自分の体に残してきた半分の自我が泣きそうになっている。
幸せなのね、この船のコックで居られて。
これから先も、ずっとその時間が続くように、いつの間にか私は祈っていた。
信じてもいない神に向かって。