ひとりで海に出てから
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造血剤の点滴中、レイラは一度も目を開けなかった。
手術室にはベッドに横になったシャチ、ペンギンとベポだけを残した。
「…キャプテン、体、いかがですか」
「…問題ない」
あいつの唇が離れた瞬間、全身を抉るようだった痛みが消え失せた。
血管も神経も損傷していて、自力で動かせなかったはずの右手が、
手術に耐えうるだけの機能を取り戻していた。
「…痛みは、」
「お前ら」
ペンギンとベポの視線を威圧する。
「さっき見たことは他言無用だ」
「…アイアイ」
「わかりました」
300年前の医学書で読んだことがある。
人の痛みを引き受ける能力を持つ一族の事を。
時の権力者に搾取され、居なくなったとされていた。
絶えてなかったのか、この血は。
レイラの点滴が終わり、針を抜く。そのまま横向きに抱え上げる。
右肩に痛みが走ったが、こいつを運ぶのには問題のない程度だった。
「シャチを任せた」
「…了解です」
「キャプテンもゆっくり休んでね」
船長室に入り、ベッドに降ろして、顔に掛かった前髪を払う。
輸血ができないと知った時、助けられないかもしれないと思った。
ゾッとした。もう一度口づけたら、こいつに取られた痛みが戻るだろうか。そんな非科学的なことを考えた。
手を添えて、まだ色の戻らない下唇を食む。
ただ、冷たい柔らかさを感じるだけだった。
*
もやの中から意識が引き上げられる。開けた目に映ったのは、壁と枕と自分の髪だった。布団の匂いが、男の人の匂い。
後ろに人の気配を感じた。寝返りを打つと、ベッドを背もたれに眠る後ろ姿。ローだ。
記憶をたどる。
ローとシャチが大ケガして帰ってきて、ケガを引き受けて、手術室で寝ちゃって、造血剤を打たれて眠って、今に至る。たぶんこの人に運ばれたんだろう。
…運んだんだとしたらローの腕は大丈夫かしら。
這うようにベッドを降りて、右肩に触れる。ダメージは増えてないみたいだった。よかった。
自由を奪われるかな。そうなる前に、ここを出よう。
気配を消して立ち上がり、ドアノブに手をかける。
「…カラワヤの一族」
首筋にひやりと冷たい刃物を突き付けられた気分だった。振り返って、ローの視線を正面から受け止めた。
「…これだから名医は嫌だったのよ」
知られた以上、場合によってはこの人は敵だ。この状態で闘って勝てる気はしないが、支配下に置かれずに死ぬことはできそうだ。
「…私の事をどうするつもり?」
「どうとは?」
「たいていの人は能力に興味を持って、支配を試みるそうよ」
「…なぜ助けた」
「…え?」
「苦痛がお前に移るんだろう」
あれが見えなければ、表面上の痛みは取っても、「いのち」を分けて後遺症を避けることまではしなかっただろう。
「…あなたが将来救う人の中に、私の大切な人も含まれてると思ったから」
ルフィが、彼のおかげで生き延びるはずだ。それまではこの人が生きていて、医者でいてもらわないと。
手術室にはベッドに横になったシャチ、ペンギンとベポだけを残した。
「…キャプテン、体、いかがですか」
「…問題ない」
あいつの唇が離れた瞬間、全身を抉るようだった痛みが消え失せた。
血管も神経も損傷していて、自力で動かせなかったはずの右手が、
手術に耐えうるだけの機能を取り戻していた。
「…痛みは、」
「お前ら」
ペンギンとベポの視線を威圧する。
「さっき見たことは他言無用だ」
「…アイアイ」
「わかりました」
300年前の医学書で読んだことがある。
人の痛みを引き受ける能力を持つ一族の事を。
時の権力者に搾取され、居なくなったとされていた。
絶えてなかったのか、この血は。
レイラの点滴が終わり、針を抜く。そのまま横向きに抱え上げる。
右肩に痛みが走ったが、こいつを運ぶのには問題のない程度だった。
「シャチを任せた」
「…了解です」
「キャプテンもゆっくり休んでね」
船長室に入り、ベッドに降ろして、顔に掛かった前髪を払う。
輸血ができないと知った時、助けられないかもしれないと思った。
ゾッとした。もう一度口づけたら、こいつに取られた痛みが戻るだろうか。そんな非科学的なことを考えた。
手を添えて、まだ色の戻らない下唇を食む。
ただ、冷たい柔らかさを感じるだけだった。
*
もやの中から意識が引き上げられる。開けた目に映ったのは、壁と枕と自分の髪だった。布団の匂いが、男の人の匂い。
後ろに人の気配を感じた。寝返りを打つと、ベッドを背もたれに眠る後ろ姿。ローだ。
記憶をたどる。
ローとシャチが大ケガして帰ってきて、ケガを引き受けて、手術室で寝ちゃって、造血剤を打たれて眠って、今に至る。たぶんこの人に運ばれたんだろう。
…運んだんだとしたらローの腕は大丈夫かしら。
這うようにベッドを降りて、右肩に触れる。ダメージは増えてないみたいだった。よかった。
自由を奪われるかな。そうなる前に、ここを出よう。
気配を消して立ち上がり、ドアノブに手をかける。
「…カラワヤの一族」
首筋にひやりと冷たい刃物を突き付けられた気分だった。振り返って、ローの視線を正面から受け止めた。
「…これだから名医は嫌だったのよ」
知られた以上、場合によってはこの人は敵だ。この状態で闘って勝てる気はしないが、支配下に置かれずに死ぬことはできそうだ。
「…私の事をどうするつもり?」
「どうとは?」
「たいていの人は能力に興味を持って、支配を試みるそうよ」
「…なぜ助けた」
「…え?」
「苦痛がお前に移るんだろう」
あれが見えなければ、表面上の痛みは取っても、「いのち」を分けて後遺症を避けることまではしなかっただろう。
「…あなたが将来救う人の中に、私の大切な人も含まれてると思ったから」
ルフィが、彼のおかげで生き延びるはずだ。それまではこの人が生きていて、医者でいてもらわないと。