あかいふねでのおはなし
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グランドラインにある冬島に停泊していた時期だった。
ある日、村のはずれで人影を見かけた。
長い髪を括り、黒いマントに身を包み、腰から猟銃と短剣を下げている。
まるで、小さな猟師。
どうやら子供、しかも女のようだった。
茂みに隠れて様子を窺い、後をつけようとした。
「赤髪さんでしょ」
「…俺のこと知ってるのか?」
「酒場で騒いでたから」
「おお、そうか」
「ついてこられると困る」
「別について行こうとは」
「してたでしょ。聞こえたもん」
…聞こえた?
子供は俺に向き直ると、心底困った顔で首を傾げた。
「赤髪さんみたいな人についてこられると困るの」
「事情が分かんねぇと、ついて行っちまうかもしれねぇなァ」
まるで大人のような溜息を一つ吐いて、そいつは俺を家に案内した。
*
私の両親と弟は海軍に殺されている。
「海賊王の子供狩り」と、おばあちゃんとお兄ちゃんが教えてくれた。
お兄ちゃんって言っても、ほんとはお父さんの弟だから、おじさん?なんだけど。
おばあちゃんは風や木の声が聞こえる人だった。
村では「魔女」で「医者代わり」だった。
お兄ちゃんはものすごく腕のいい猟師だった。
「歴代最高のスナイパー」で「熊と闘える村で唯一の男」だった。
私は二人に着いて回って、薬草や「声」の聞き方を教わったり、
山を走り回って獣の獲り方を学んだりした。
私が8歳になったある日、おばあちゃんが熊に襲われて死んでしまった。
村の人はそれはもう悲しんだ、「これからはどうやって病気を直したらいいんだ」って。
その日から、お兄ちゃんは私を山に連れて行ってくれなくなった。
代わりに私に聞こえる「声」は、日に日に大きく正確になっていった。
同じ島の中なら、お兄ちゃんがどこで何をして何を考えているのか、わかるくらいに。
だから、山に入っていた時より、熊の打ち方がわかるようになった。
私が9歳になったある日。
お兄ちゃんが熊に襲われた。
村のおじさんたちに「お兄ちゃんを助けて」って言った。
おじさんたちは「君のお兄さんが太刀打ちできない相手なら
この村の誰もが太刀打ちできないよ」と言って、銃を手に取ることすらしなかった。
何かが壊れた音がした。
「…自分たちは、私達に助けてって言うくせに、」
「いや、レイラちゃん、」
「私達が助けてほしいときは何もしてくれないのね!!!!」
家から全力で走った。
でも、お兄ちゃんはお腹を切り裂かれて虫の息だった。
ここで一緒にいると泣く私に、お兄ちゃんはひとつ呪いをかけた。
「お前が死んだら誰が俺とばあさんの仇を討つんだ」と。
それから心の声で「生きろ」と言った。
私を生かすための呪いだった。
だから、私はその呪いを受けた。
しゃくりあげながら、なんとかお兄ちゃんに、一緒にいてくれたことのお礼を言って。
雪原を、後にした。
お兄ちゃんの断末魔を聞きながら。
*
「ということがあってね」
10歳の子供とは思えないほど淡々とした口調で話した後。
「だから、私は山に入らないといけないし、あなたに一緒に来てもらうと困る」
「だとしても、お前ひとりで、」
「赤髪さん」
強い瞳の光が俺を射抜く。
一瞬、野生動物と見まがうほどの気高い瞳。
「これは、私の闘いだから。」
ある日、村のはずれで人影を見かけた。
長い髪を括り、黒いマントに身を包み、腰から猟銃と短剣を下げている。
まるで、小さな猟師。
どうやら子供、しかも女のようだった。
茂みに隠れて様子を窺い、後をつけようとした。
「赤髪さんでしょ」
「…俺のこと知ってるのか?」
「酒場で騒いでたから」
「おお、そうか」
「ついてこられると困る」
「別について行こうとは」
「してたでしょ。聞こえたもん」
…聞こえた?
子供は俺に向き直ると、心底困った顔で首を傾げた。
「赤髪さんみたいな人についてこられると困るの」
「事情が分かんねぇと、ついて行っちまうかもしれねぇなァ」
まるで大人のような溜息を一つ吐いて、そいつは俺を家に案内した。
*
私の両親と弟は海軍に殺されている。
「海賊王の子供狩り」と、おばあちゃんとお兄ちゃんが教えてくれた。
お兄ちゃんって言っても、ほんとはお父さんの弟だから、おじさん?なんだけど。
おばあちゃんは風や木の声が聞こえる人だった。
村では「魔女」で「医者代わり」だった。
お兄ちゃんはものすごく腕のいい猟師だった。
「歴代最高のスナイパー」で「熊と闘える村で唯一の男」だった。
私は二人に着いて回って、薬草や「声」の聞き方を教わったり、
山を走り回って獣の獲り方を学んだりした。
私が8歳になったある日、おばあちゃんが熊に襲われて死んでしまった。
村の人はそれはもう悲しんだ、「これからはどうやって病気を直したらいいんだ」って。
その日から、お兄ちゃんは私を山に連れて行ってくれなくなった。
代わりに私に聞こえる「声」は、日に日に大きく正確になっていった。
同じ島の中なら、お兄ちゃんがどこで何をして何を考えているのか、わかるくらいに。
だから、山に入っていた時より、熊の打ち方がわかるようになった。
私が9歳になったある日。
お兄ちゃんが熊に襲われた。
村のおじさんたちに「お兄ちゃんを助けて」って言った。
おじさんたちは「君のお兄さんが太刀打ちできない相手なら
この村の誰もが太刀打ちできないよ」と言って、銃を手に取ることすらしなかった。
何かが壊れた音がした。
「…自分たちは、私達に助けてって言うくせに、」
「いや、レイラちゃん、」
「私達が助けてほしいときは何もしてくれないのね!!!!」
家から全力で走った。
でも、お兄ちゃんはお腹を切り裂かれて虫の息だった。
ここで一緒にいると泣く私に、お兄ちゃんはひとつ呪いをかけた。
「お前が死んだら誰が俺とばあさんの仇を討つんだ」と。
それから心の声で「生きろ」と言った。
私を生かすための呪いだった。
だから、私はその呪いを受けた。
しゃくりあげながら、なんとかお兄ちゃんに、一緒にいてくれたことのお礼を言って。
雪原を、後にした。
お兄ちゃんの断末魔を聞きながら。
*
「ということがあってね」
10歳の子供とは思えないほど淡々とした口調で話した後。
「だから、私は山に入らないといけないし、あなたに一緒に来てもらうと困る」
「だとしても、お前ひとりで、」
「赤髪さん」
強い瞳の光が俺を射抜く。
一瞬、野生動物と見まがうほどの気高い瞳。
「これは、私の闘いだから。」
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