本編
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シベリアンハスキーの長い舌が頬を舐める。
中身は人間のはずなんだけど、犬の姿の時は犬らしい行動をとるんだなあ、
と考えていたら、急に剣士さんが止まった。
涙でぼんやりした視界を手で拭いて目を上げたら、
目の前に人間に戻った剣士さんが見えた。
「わっ、」
「ッ、」
驚いて反射的に後ろに逃げようとしたら壁にぶつかった。
ごつごつした手が顎を掬い上げる。
絡んだ視線は熱に浮かされたような男の人のそれだった。
思わず目を逸らした数秒後、吐息が近づいてきて、信じられないくらい熱い唇が触れた。
呼吸が苦しい。
なんでだろう、泣いたからか。
何で泣いたんだっけ。
…巫女の先輩からまた酷いことを言われてつらく当たられて、
その上いつものスガノさんがしつこく食い下がってきて、
「ミオさんは家族がいないから僕が守ってあげなくちゃと思うんです」って
言われた途端なにかが決壊したんだった。
私はそんなに惨めな人間じゃない。
この人のそれは尊重じゃない、憐憫だ、自分の立場が上だと確認したいだけだ。
そう思ったら、私の尊厳を誰も尊重してくれない気がしてきて、
ものすごく荒涼とした精神状態で帰り道を歩いた。
私には、誰もいない。
今一緒にいる人も、もうすぐいなくなる。
でも、一人だった時のダメージより、
一緒にいた誰かがいなくなることを考えた時のダメージの方が、大きいのはなぜだろう。
そう思ったら、剣士さんの厚い胸板を押し返していた。
知ってしまった後の方が苦しい。
それなら知らないほうが幸せと思っていいのではないか。
「あの、」
「なんで泣いてた?」
「えっと…」
「お前が泣いてると腹が立つ」
「…え?」
「なんで一人で泣く?」
「それは、」
「おれはそんなに頼りないかよ」
「そうじゃなくて!」
思わず強い声が出た。
「…そうじゃなくて、」
「言いたいことがあるなら言え」
「…剣士さんは、もうすぐ帰るから、その後の私は本当にひとりだなあと思って」
「あ?」
「仕事で関わる人はいるけど、尊重してくれる人はいないし」
「…」
「知る前より、知ってから失う方がつらいものね」
「なら、」
迷いのない声に弾かれるように視線を上げる。
「失わなきゃいいじゃねえか」
…何を言っているのか、わかって言っているんだろうか。
この人を失わないことは、それ以外のほとんどを失うことを意味する。
「おれはお前が選ぶなら、」
「待って」
頭が付いて行かない。
「…しばらく、考えさせて」
「…わかった」
中身は人間のはずなんだけど、犬の姿の時は犬らしい行動をとるんだなあ、
と考えていたら、急に剣士さんが止まった。
涙でぼんやりした視界を手で拭いて目を上げたら、
目の前に人間に戻った剣士さんが見えた。
「わっ、」
「ッ、」
驚いて反射的に後ろに逃げようとしたら壁にぶつかった。
ごつごつした手が顎を掬い上げる。
絡んだ視線は熱に浮かされたような男の人のそれだった。
思わず目を逸らした数秒後、吐息が近づいてきて、信じられないくらい熱い唇が触れた。
呼吸が苦しい。
なんでだろう、泣いたからか。
何で泣いたんだっけ。
…巫女の先輩からまた酷いことを言われてつらく当たられて、
その上いつものスガノさんがしつこく食い下がってきて、
「ミオさんは家族がいないから僕が守ってあげなくちゃと思うんです」って
言われた途端なにかが決壊したんだった。
私はそんなに惨めな人間じゃない。
この人のそれは尊重じゃない、憐憫だ、自分の立場が上だと確認したいだけだ。
そう思ったら、私の尊厳を誰も尊重してくれない気がしてきて、
ものすごく荒涼とした精神状態で帰り道を歩いた。
私には、誰もいない。
今一緒にいる人も、もうすぐいなくなる。
でも、一人だった時のダメージより、
一緒にいた誰かがいなくなることを考えた時のダメージの方が、大きいのはなぜだろう。
そう思ったら、剣士さんの厚い胸板を押し返していた。
知ってしまった後の方が苦しい。
それなら知らないほうが幸せと思っていいのではないか。
「あの、」
「なんで泣いてた?」
「えっと…」
「お前が泣いてると腹が立つ」
「…え?」
「なんで一人で泣く?」
「それは、」
「おれはそんなに頼りないかよ」
「そうじゃなくて!」
思わず強い声が出た。
「…そうじゃなくて、」
「言いたいことがあるなら言え」
「…剣士さんは、もうすぐ帰るから、その後の私は本当にひとりだなあと思って」
「あ?」
「仕事で関わる人はいるけど、尊重してくれる人はいないし」
「…」
「知る前より、知ってから失う方がつらいものね」
「なら、」
迷いのない声に弾かれるように視線を上げる。
「失わなきゃいいじゃねえか」
…何を言っているのか、わかって言っているんだろうか。
この人を失わないことは、それ以外のほとんどを失うことを意味する。
「おれはお前が選ぶなら、」
「待って」
頭が付いて行かない。
「…しばらく、考えさせて」
「…わかった」