本編
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今日の分のおつとめを終えて、いつもの山道を下る。
私は家の近くの神社で巫女として働いている。
父が宮司をしていた関係で雇ってもらったけれど、その父も去年他界した。
20歳にして天涯孤独になった私は、職業柄大々的に恋人を募集することもなく、
淡々と家と職場の往復を繰り返している。
そんな日々にも小さな変化はある。
例えば。
「…あら?」
神社のある山のふもとに私の家はあって、出勤は徒歩で20分の山登り、
帰宅は山下りになるわけだが、ちょうど中間地点に小さな社がある。
木々の隙間から、その社の横に白っぽいかたまりを見つけた。
遠目に犬かなあと当たりをつけて鳥居まで近づくと、
シベリアンハスキーが横たわっているのが見えた。
よく見ると左目に傷がある。野犬だろうか。喧嘩してやられたのかしら。
私の気配を察知したらしく、ピクリと震えたあと犬がこっちを見た。
「…シベリアンハスキーって、青い目の犬だと思っていたけれど」
野生動物特有の無駄のない動きでスッと頭を上げる。
「緑色の目の子もいるんですね」
「あァ?」
「…え?」
心なしかすごく人間っぽい声を発した気がする、あの犬。
「なにジロジロ見てんだよ」
「…!?」
いま、完璧に人間の言葉だった。
「…今、喋りましたか?」
「ああ。聞こえてんだろ」
「…あなたは、どなたですか?」
「おれはロロノア・ゾロ。剣士だ」
「…剣士…のシベリアンハスキー、ですか?」
「そのシベリアンなんちゃらは知らねえけど、気付いたら犬だった」
「気づいたら、犬…」
「…ま、グランドラインだしな」
「…」
「こんくらいのことよくあんだろ」
5年前の夏がフラッシュバックする。
頭上を飛び回る影。庭先で構えられる竹刀。お風呂上がりの浴衣。
「…私たちは、動物の姿をして人間の言葉を話す者たちを、神の使いと呼びます」
「あ?」
「…ケガ、されてますよね」
「こんくらい大したことねえよ」
「…おそらく、前の身体と今の身体では、治し方や対処方法が違うと思います」
ロロノアと名乗った犬の剣士は、嘘があればすぐ見抜きそうな強い目力で私を見据える。
「もしよかったら、うちに来ませんか。
この辺りでは、登録されていない犬がいると、連れて行かれて檻に入れられ、
最悪のケースでは殺されることもあると聞いています」
「…」
「私に、あなたのお手伝いをさせてください」
*
全身のあちこちに傷があって、どれが最近ついた傷か分からないくらいだ。
ひとまず新しそうな傷の周りをよく洗う。
痛いだろうに、弱音を吐かない硬派な犬さんだ。
「犬さん」
「なんだその呼び方」
「…剣士さん、痛くないですか?」
「…大したことねぇ」
「あそこにはどのくらい座っていたんですか?」
「一時間ってとこだな」
「さぞびっくりしたでしょうに、今の姿になられて」
「…ああ、まあ」
犬さん改め剣士さんがぱちりとこっちを見た。
「そういや、ここはなんて村だ?」
「ここですか?」
「あァ。おれはシッケアール王国の跡地にいたんだが」
「…おそらくですが、あなたがいらっしゃった所からは、とても遠い場所だと思います」
「なんだと?」
「あとで地図をお見せしますね」
困惑気味に顔を伏せる剣士さんに、私は笑顔を向けた。
私は家の近くの神社で巫女として働いている。
父が宮司をしていた関係で雇ってもらったけれど、その父も去年他界した。
20歳にして天涯孤独になった私は、職業柄大々的に恋人を募集することもなく、
淡々と家と職場の往復を繰り返している。
そんな日々にも小さな変化はある。
例えば。
「…あら?」
神社のある山のふもとに私の家はあって、出勤は徒歩で20分の山登り、
帰宅は山下りになるわけだが、ちょうど中間地点に小さな社がある。
木々の隙間から、その社の横に白っぽいかたまりを見つけた。
遠目に犬かなあと当たりをつけて鳥居まで近づくと、
シベリアンハスキーが横たわっているのが見えた。
よく見ると左目に傷がある。野犬だろうか。喧嘩してやられたのかしら。
私の気配を察知したらしく、ピクリと震えたあと犬がこっちを見た。
「…シベリアンハスキーって、青い目の犬だと思っていたけれど」
野生動物特有の無駄のない動きでスッと頭を上げる。
「緑色の目の子もいるんですね」
「あァ?」
「…え?」
心なしかすごく人間っぽい声を発した気がする、あの犬。
「なにジロジロ見てんだよ」
「…!?」
いま、完璧に人間の言葉だった。
「…今、喋りましたか?」
「ああ。聞こえてんだろ」
「…あなたは、どなたですか?」
「おれはロロノア・ゾロ。剣士だ」
「…剣士…のシベリアンハスキー、ですか?」
「そのシベリアンなんちゃらは知らねえけど、気付いたら犬だった」
「気づいたら、犬…」
「…ま、グランドラインだしな」
「…」
「こんくらいのことよくあんだろ」
5年前の夏がフラッシュバックする。
頭上を飛び回る影。庭先で構えられる竹刀。お風呂上がりの浴衣。
「…私たちは、動物の姿をして人間の言葉を話す者たちを、神の使いと呼びます」
「あ?」
「…ケガ、されてますよね」
「こんくらい大したことねえよ」
「…おそらく、前の身体と今の身体では、治し方や対処方法が違うと思います」
ロロノアと名乗った犬の剣士は、嘘があればすぐ見抜きそうな強い目力で私を見据える。
「もしよかったら、うちに来ませんか。
この辺りでは、登録されていない犬がいると、連れて行かれて檻に入れられ、
最悪のケースでは殺されることもあると聞いています」
「…」
「私に、あなたのお手伝いをさせてください」
*
全身のあちこちに傷があって、どれが最近ついた傷か分からないくらいだ。
ひとまず新しそうな傷の周りをよく洗う。
痛いだろうに、弱音を吐かない硬派な犬さんだ。
「犬さん」
「なんだその呼び方」
「…剣士さん、痛くないですか?」
「…大したことねぇ」
「あそこにはどのくらい座っていたんですか?」
「一時間ってとこだな」
「さぞびっくりしたでしょうに、今の姿になられて」
「…ああ、まあ」
犬さん改め剣士さんがぱちりとこっちを見た。
「そういや、ここはなんて村だ?」
「ここですか?」
「あァ。おれはシッケアール王国の跡地にいたんだが」
「…おそらくですが、あなたがいらっしゃった所からは、とても遠い場所だと思います」
「なんだと?」
「あとで地図をお見せしますね」
困惑気味に顔を伏せる剣士さんに、私は笑顔を向けた。
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