Significance of parting
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ベッドに横になって天井を見つめた。
さっきまで特製塩鮭定食を食べながら所在なさげにしていたユリカちゃんを思い出す。
2回目のデートのあたりからあんまり目を合わせてくれなくなった。
おれを呼ぶ時も「ねぇ」とか「あのね」とか、極力名前を呼ばないようにしている節がある。
おれのせいだろうな。
本当は自分で分かってたが、あの日のおれはいつもより弱ってた。
たぶん嫌な夢を見たからだ。覚えてねェけど。
目が覚めてため息をついた後、あァもうすぐユリカちゃんが帰ってくるな、昼飯はなんにしようか、一昨日行きたがってた服屋に今日は連れて行こう、って考えてるうちに嫌な気分が消え始めた。
で、嫌な気分から完全に逃れたくてデートに誘ったってわけだ。
ユリカちゃんは気づいたのかも知れねェな。
おれが自分のためにそうしてることに。
だからおれと距離を取ろうとしてる。
…正しいことだと思う。
明日、正確には今日は店が休みだが、どうしようか。
今まで毎週デートしてた手前、急にそれを無くすのは不自然な気もするが、優しい彼女のことだからおれが誘えばきっと断らない。
そんなことをグダグダと考えながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
*
雨の日の図書館は静かだ。
窓を開けなくなるから外からの音はしないし、紙をめくる音も鉛筆を走らせる音もぜんぶ紙の海に吸い込まれる。
数学を解き終わって一回伸びをした。
時計を見るとちょうど12時になっていて、あの人はもう起きた頃かな、と考える。
先週、泣きながら眠った日から、あの人を直視できなくなった。
名前を呼ぶのも恥ずかしくて、誤魔化して会話してる。
ユリカちゃん、って呼ばれるたびにドキッとして、顔が真っ赤になりそうだから、できるだけ話を短く終わらせたりして。
そんな私にあの人が寂しそうにしていることに期待しそうになって、でもきっとそれは単なるあの人の優しさだから、自分がもっと嫌いになって。
友達がクラスの男子に恋をして情緒不安定になるのを、不思議な気持ちで見てたけど、今の自分はそれと一緒だった。
もう、見ないふりが出来ないくらい、あの人のことが好きみたいだ。
ピコン、とスマホが鳴って、周りの人がこっちを見た。
思わず頭を下げて、荷物をカバンに詰め込んで図書館の玄関に向かう。
<今日、どこか行きたいところはあるかい?>
本当は、一緒に買った服に合う靴を買いに行きたいんだけど。
あの人と2人で、普通の顔をして出かけられる自信がない。
スマホを見ながら悩んでいると、隣に誰かが立った。
「ねえ」
目を上げると知らない男の人。
「雨宿り?」
「あ、いえ」
「良かったら送っていくよ」
「あ、大丈夫です」
「こんな雨だし風邪でも引いたら大変だ、ほら」
急に右手を引っ張られてスマホを落とした。
左手はカバンで塞がっている。
「え、あの」
「だいじょぶだいじょぶ、すぐそこだから」
「っ、辞めてください、」
ぐいぐいとものすごい力で引っ張っていく腕に恐怖が湧き上がる。
振りほどこうとしても力の差がありすぎて、ほんの少し腕が揺れただけだった。
どうしよう、
誰か、
「…おい」
逆方向に強く引き戻された。
恐怖を感じなかったのは、押し付けられたワイシャツのその匂いを知っていたから。
「この子になんか用か」
私と話す時とは全然違う、低い低い声。
「…なんだお前」
「レディに対してなんたる無礼なエスコートだ」
「あ?」
背中を向けていた私でもわかった。
強い敵意が向けられたこと。
「さっさと失せろ、クソ野郎」
さっきまで特製塩鮭定食を食べながら所在なさげにしていたユリカちゃんを思い出す。
2回目のデートのあたりからあんまり目を合わせてくれなくなった。
おれを呼ぶ時も「ねぇ」とか「あのね」とか、極力名前を呼ばないようにしている節がある。
おれのせいだろうな。
本当は自分で分かってたが、あの日のおれはいつもより弱ってた。
たぶん嫌な夢を見たからだ。覚えてねェけど。
目が覚めてため息をついた後、あァもうすぐユリカちゃんが帰ってくるな、昼飯はなんにしようか、一昨日行きたがってた服屋に今日は連れて行こう、って考えてるうちに嫌な気分が消え始めた。
で、嫌な気分から完全に逃れたくてデートに誘ったってわけだ。
ユリカちゃんは気づいたのかも知れねェな。
おれが自分のためにそうしてることに。
だからおれと距離を取ろうとしてる。
…正しいことだと思う。
明日、正確には今日は店が休みだが、どうしようか。
今まで毎週デートしてた手前、急にそれを無くすのは不自然な気もするが、優しい彼女のことだからおれが誘えばきっと断らない。
そんなことをグダグダと考えながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
*
雨の日の図書館は静かだ。
窓を開けなくなるから外からの音はしないし、紙をめくる音も鉛筆を走らせる音もぜんぶ紙の海に吸い込まれる。
数学を解き終わって一回伸びをした。
時計を見るとちょうど12時になっていて、あの人はもう起きた頃かな、と考える。
先週、泣きながら眠った日から、あの人を直視できなくなった。
名前を呼ぶのも恥ずかしくて、誤魔化して会話してる。
ユリカちゃん、って呼ばれるたびにドキッとして、顔が真っ赤になりそうだから、できるだけ話を短く終わらせたりして。
そんな私にあの人が寂しそうにしていることに期待しそうになって、でもきっとそれは単なるあの人の優しさだから、自分がもっと嫌いになって。
友達がクラスの男子に恋をして情緒不安定になるのを、不思議な気持ちで見てたけど、今の自分はそれと一緒だった。
もう、見ないふりが出来ないくらい、あの人のことが好きみたいだ。
ピコン、とスマホが鳴って、周りの人がこっちを見た。
思わず頭を下げて、荷物をカバンに詰め込んで図書館の玄関に向かう。
<今日、どこか行きたいところはあるかい?>
本当は、一緒に買った服に合う靴を買いに行きたいんだけど。
あの人と2人で、普通の顔をして出かけられる自信がない。
スマホを見ながら悩んでいると、隣に誰かが立った。
「ねえ」
目を上げると知らない男の人。
「雨宿り?」
「あ、いえ」
「良かったら送っていくよ」
「あ、大丈夫です」
「こんな雨だし風邪でも引いたら大変だ、ほら」
急に右手を引っ張られてスマホを落とした。
左手はカバンで塞がっている。
「え、あの」
「だいじょぶだいじょぶ、すぐそこだから」
「っ、辞めてください、」
ぐいぐいとものすごい力で引っ張っていく腕に恐怖が湧き上がる。
振りほどこうとしても力の差がありすぎて、ほんの少し腕が揺れただけだった。
どうしよう、
誰か、
「…おい」
逆方向に強く引き戻された。
恐怖を感じなかったのは、押し付けられたワイシャツのその匂いを知っていたから。
「この子になんか用か」
私と話す時とは全然違う、低い低い声。
「…なんだお前」
「レディに対してなんたる無礼なエスコートだ」
「あ?」
背中を向けていた私でもわかった。
強い敵意が向けられたこと。
「さっさと失せろ、クソ野郎」