Significance of parting
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「人がたくさんだね」
「そうか?あァ、夏休みだからかな」
ユリカちゃんはあの次の週から勉強漬けになった。
朝は空が明るくなり始めるころに起きて、ちょうど寝る前のおれが作った朝食を食べる。午前中いっぱい図書館で勉強し、昼過ぎに帰って来て昼食、そこから開店までずっと店で勉強。二階に持って行った夕食を摂ったあとは暗記科目に取り掛かり、バーの客足がピークになる前の9時ぐらいには就寝。
軍隊のように規則正しい生活に、おれは少し心配になっていた。
昨日の昼食時、ユリカちゃんがおずおずとおれに頼んできた。
”参考書買いに行きたいから付き合って”って。
「っていうより、あんまりこういう所来たことない」
「…そっか。参考書は買えたけど、他に寄りたいところはないかい?」
「…うーん」
「ユリカちゃん?」
「本当はお洋服とか見たりした方がいいと思うんだけど、たくさん送られてくるからそれ着ればいいかって思っちゃって」
「…そうなんだ」
ユリカちゃんの着る服はいつもレトロでガーリーだ。
お嬢様風と言えばそうだが、彼女の大人びた内面と合っていないように感じる時もあった。
「ユリカちゃん」
「うん?」
「今日はユリカちゃんがここに来たいって言ってくれたおかげで、おれもすごく楽しい時間が過ごせた。だから、そのお礼がしたいんだが」
「…お礼?」
「あァ」
*
「…」
鏡の中の自分を無言で見つめるユリカちゃんを、おれは鏡越しに眺めていた。
「お気に召しましたか?レディ」
華奢な手が動いて口元を覆う。
その仕草ひとつでも、さっきまでのユリカちゃんとは比べ物にならないほど。
「…私じゃない、大人の人みたい」
いつものふわふわヒラヒラした服より、もっと直線的でパリッとした服の方が、ユリカちゃんの聡明さを際立たせるんじゃないか。
普段からそんな風に感じていたが、これは予想以上だ。
「お客様、いかがでしょう?失礼しますね」
「あ、えっと、」
「わぁ!よくお似合いです!!彼氏さんのセンスがいいんですね!!」
「…え、」
「ありがとう、これお願いするよ」
「ありがとうございます!それではレジでお待ちしてますね!」
固まったままのユリカちゃんに会釈して店員さんは試着ブースを出ていく。
「え、あの、だってこれ、」
「今日のお礼だ」
「でも、」
「ユリカちゃんにひとつ大人のふるまいを知ってもらおう。こういう時はレディはにっこり”ありがとう”って言えばいい」
「…」
「ね?」
目線を彷徨わせていたユリカちゃんは、覚悟を決めたようにおれを見上げた。
「…ありがとう、…サンジくん」
不意打ちに固まったのはおれもだった。
6歳年下のレディに初めて名前を呼ばれたってだけで、こんなに狼狽する自分だとは思ってなかった。
「…どういたしまして、プリンセス」
なんとか絞り出した声は、強すぎる空調のせいか酷く乾いて聞こえた。
「そうか?あァ、夏休みだからかな」
ユリカちゃんはあの次の週から勉強漬けになった。
朝は空が明るくなり始めるころに起きて、ちょうど寝る前のおれが作った朝食を食べる。午前中いっぱい図書館で勉強し、昼過ぎに帰って来て昼食、そこから開店までずっと店で勉強。二階に持って行った夕食を摂ったあとは暗記科目に取り掛かり、バーの客足がピークになる前の9時ぐらいには就寝。
軍隊のように規則正しい生活に、おれは少し心配になっていた。
昨日の昼食時、ユリカちゃんがおずおずとおれに頼んできた。
”参考書買いに行きたいから付き合って”って。
「っていうより、あんまりこういう所来たことない」
「…そっか。参考書は買えたけど、他に寄りたいところはないかい?」
「…うーん」
「ユリカちゃん?」
「本当はお洋服とか見たりした方がいいと思うんだけど、たくさん送られてくるからそれ着ればいいかって思っちゃって」
「…そうなんだ」
ユリカちゃんの着る服はいつもレトロでガーリーだ。
お嬢様風と言えばそうだが、彼女の大人びた内面と合っていないように感じる時もあった。
「ユリカちゃん」
「うん?」
「今日はユリカちゃんがここに来たいって言ってくれたおかげで、おれもすごく楽しい時間が過ごせた。だから、そのお礼がしたいんだが」
「…お礼?」
「あァ」
*
「…」
鏡の中の自分を無言で見つめるユリカちゃんを、おれは鏡越しに眺めていた。
「お気に召しましたか?レディ」
華奢な手が動いて口元を覆う。
その仕草ひとつでも、さっきまでのユリカちゃんとは比べ物にならないほど。
「…私じゃない、大人の人みたい」
いつものふわふわヒラヒラした服より、もっと直線的でパリッとした服の方が、ユリカちゃんの聡明さを際立たせるんじゃないか。
普段からそんな風に感じていたが、これは予想以上だ。
「お客様、いかがでしょう?失礼しますね」
「あ、えっと、」
「わぁ!よくお似合いです!!彼氏さんのセンスがいいんですね!!」
「…え、」
「ありがとう、これお願いするよ」
「ありがとうございます!それではレジでお待ちしてますね!」
固まったままのユリカちゃんに会釈して店員さんは試着ブースを出ていく。
「え、あの、だってこれ、」
「今日のお礼だ」
「でも、」
「ユリカちゃんにひとつ大人のふるまいを知ってもらおう。こういう時はレディはにっこり”ありがとう”って言えばいい」
「…」
「ね?」
目線を彷徨わせていたユリカちゃんは、覚悟を決めたようにおれを見上げた。
「…ありがとう、…サンジくん」
不意打ちに固まったのはおれもだった。
6歳年下のレディに初めて名前を呼ばれたってだけで、こんなに狼狽する自分だとは思ってなかった。
「…どういたしまして、プリンセス」
なんとか絞り出した声は、強すぎる空調のせいか酷く乾いて聞こえた。