季節、
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特別この曲が好きなわけではないけど、イヤホンから漏れる爆音に誰も声をかけなくなるから毎朝聞いている。
今日も同じ、はずだった。
視界に影が差して少しだけ目線を動かすと、誰かが私の顔を覗き込んでいるのが見えた。
無視できないくらいの覗き込み方に、おずおずと顔を上げる。
見たことのない髪色の男子が私に何か言った。
反射的にイヤホンを取る。
「いま、なんて?」
「ここのバス東高行くか?」
ネクタイの色が一緒だから、同学年なんだろう。
「…行くよ」
「そうか、サンキュ」
それっきりその男子は私の隣に並んで口を閉ざした。
私もイヤホンを元に戻してつま先に目を向ける。
目の前にバスが止まった。循環バス、駅前行き。
隣の男子が開いたドアに向かうのが見えた。
「待って」
振り返ったその男子より私の方が驚いていた、と思う。
「なんだよ」
「…このバス、駅の方行くから、学校には行かない」
「お前さっき行くって言ったじゃねェか」
「…言ったけど」
言い合っているうちにバスの扉は閉まり、私達を残して発車する。
「このバス停、東高行きと駅前行きどっちも停まるから」
「なんだよ、紛らわしいな」
「…2年だよね」
「あ?ああ」
今更知ったのだろうか。
今までどうやって行ってたんだろう。
ちらりと横顔を盗み見る。
緑色の髪、三つ並んだピアス。
生徒指導の先生がそんな生徒のことを話していた気がする。なんて言ってたか、忘れたけど。
「お前、何組だ?」
「…1組」
「隣か」
2組。
よく見たら剣道部のバッグ。
”剣道部のロロノア、県大会で優勝したからってピアスは許されんぞピアスは”
「剣道部のロロノア…くん?」
「おう。会ったことあったか」
「ない…たぶん」
「お前は」
「帰宅部」
「ちげーよ、名前」
名前を知られることに少し怖さがあった。
別に何か悪いことをしたわけでもないんだけど、存在を認識されることに苦手意識を感じてしまう。
「…ユリカ」
だから下の名前だけ言った。
「ユリカ、な」
「…」
ムズムズするような居心地の悪さが体の奥から上がって来る。
いつもの音楽を聴く気になれなくて、イヤホンを外して道の反対側に目を向ける。
風に揺れる白い花に目を凝らして、それが子供の頃に王冠を作って遊んだシロツメクサだと気づいた。
雑草が生えていると思ってた。
むしろ雑草が生えていること自体、気づいてなかったかもしれない。
音楽、ローファーのつま先、バスの行先表示。
それが全てだった。
「お、来たか」
今度こそ本当に東高行きのバスが来て私はホッとする。
1秒でも早く解放されたいと思った。
今日も同じ、はずだった。
視界に影が差して少しだけ目線を動かすと、誰かが私の顔を覗き込んでいるのが見えた。
無視できないくらいの覗き込み方に、おずおずと顔を上げる。
見たことのない髪色の男子が私に何か言った。
反射的にイヤホンを取る。
「いま、なんて?」
「ここのバス東高行くか?」
ネクタイの色が一緒だから、同学年なんだろう。
「…行くよ」
「そうか、サンキュ」
それっきりその男子は私の隣に並んで口を閉ざした。
私もイヤホンを元に戻してつま先に目を向ける。
目の前にバスが止まった。循環バス、駅前行き。
隣の男子が開いたドアに向かうのが見えた。
「待って」
振り返ったその男子より私の方が驚いていた、と思う。
「なんだよ」
「…このバス、駅の方行くから、学校には行かない」
「お前さっき行くって言ったじゃねェか」
「…言ったけど」
言い合っているうちにバスの扉は閉まり、私達を残して発車する。
「このバス停、東高行きと駅前行きどっちも停まるから」
「なんだよ、紛らわしいな」
「…2年だよね」
「あ?ああ」
今更知ったのだろうか。
今までどうやって行ってたんだろう。
ちらりと横顔を盗み見る。
緑色の髪、三つ並んだピアス。
生徒指導の先生がそんな生徒のことを話していた気がする。なんて言ってたか、忘れたけど。
「お前、何組だ?」
「…1組」
「隣か」
2組。
よく見たら剣道部のバッグ。
”剣道部のロロノア、県大会で優勝したからってピアスは許されんぞピアスは”
「剣道部のロロノア…くん?」
「おう。会ったことあったか」
「ない…たぶん」
「お前は」
「帰宅部」
「ちげーよ、名前」
名前を知られることに少し怖さがあった。
別に何か悪いことをしたわけでもないんだけど、存在を認識されることに苦手意識を感じてしまう。
「…ユリカ」
だから下の名前だけ言った。
「ユリカ、な」
「…」
ムズムズするような居心地の悪さが体の奥から上がって来る。
いつもの音楽を聴く気になれなくて、イヤホンを外して道の反対側に目を向ける。
風に揺れる白い花に目を凝らして、それが子供の頃に王冠を作って遊んだシロツメクサだと気づいた。
雑草が生えていると思ってた。
むしろ雑草が生えていること自体、気づいてなかったかもしれない。
音楽、ローファーのつま先、バスの行先表示。
それが全てだった。
「お、来たか」
今度こそ本当に東高行きのバスが来て私はホッとする。
1秒でも早く解放されたいと思った。
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