Significance of parting
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ばふ、とユリカちゃんが腕に顔を埋める。
ちょっと追い詰めすぎたかもしれねェな。
カウンター奥にある換気扇のところまで丸椅子を引きずり、煙草に火をつける。
この子が来てから開店前の一服にも気を遣うようになった。
”兄さんの子供だからつまり姪なんだけどな、こないだまで面倒見てたばあさんが亡くなって、夏休み中ずっと一人もさすがにダメだからっておれんとこに話が来たんだよ”
その話をしてきたオーナーも日本各地に飲食店を経営してあちこち飛び回ってるわけだが、その兄はそれに輪をかけて東奔西走しているらしく、ユリカちゃんをここに預けに来た日ですら5分も座っていなかった。
もう行っちまったのか、と思わずつぶやくと、ユリカちゃんはオーナーに向かって”長かった方だよね”と言い、少し唇を噛んだ。
ちらりと様子を窺うと、ユリカちゃんは両手で顔を挟んでじっとカウンターに目をやっていた。
2-3日前の営業時間後に店の電話が鳴って、首をかしげながら出るとオーナーからだった。
”ユリカが高校受験しないって言い出したらしくて、説き伏せてくれって頼まれたんだよ。おれのために一肌脱いでくれや”
ほんの数年前。
おれも同じようなことを思っていた時期があった。
できるだけ借りを作りたくなくて、リスキーな方法でさっさと社会に出ようとした。
自分が不幸になったほうが、あいつにあいつ自身の間違いを認めさせられるんじゃないか。
そう思って、あえて苦労の多い道を進もうとしたのかも知れねェ。
高校に進まないつもりだと周囲に話すと、同級生がキレて殴りかかって来たことがあった。
そいつは経済的な理由で全日制の高校を諦めて、日中働きながら定時制の高校に進むつもりだったらしい。
贅沢なんだよお前は、と罵られたが、その一件がなかったらおれは今頃もっとろくでもねェ生活をしてただろう。
ユリカちゃんは、あの頃のおれよりずっと賢い。
聡明さでも真面目さでも学力的な意味でも、順当に行けば高校受験だけじゃなく大学受験まで行くんじゃないかってタイプだ。
だから、おそらく。
おれが言いたいことも、わかってくれるはずだ。
例え時間はかかっても。
「…部屋戻る」
ふいっとカウンターを通り抜け、裏口から出ていく背中を見送る。
軽い足音が階段を上り、2階のドアが開いて閉まる音がした。
ここの2階にはワンルームの部屋が二つあって、手前をおれ、奥をユリカちゃんが使っている。
とは言え、ユリカちゃんは寝るとき以外ほとんど部屋を使わない。
日中は近くの図書館で勉強か読書をして、おれが店に降りてからはほとんど店で過ごしている。
たぶん部屋に籠るのは、一人でじっと考え事をしたい時だけ。
ちゃんと鍵は閉めただろうか。
あとで夕食を持って行きがてら言っとかねェと。
どんな酔っ払いが上に上がって行かねェとも限らない。
そういや今日は開店前に業者が見積もりの話をしに来るんだったな。
となるとその分準備は前倒しでしなきゃならねェ。
店に出す料理の下準備は出来てるが、話が長引いても厄介だから夕食は早めに作るか。
ついさっき手入れし終えたばかりの包丁を手に取る。
今日はユリカちゃんの好物と行こうじゃねェか。
ちょっと追い詰めすぎたかもしれねェな。
カウンター奥にある換気扇のところまで丸椅子を引きずり、煙草に火をつける。
この子が来てから開店前の一服にも気を遣うようになった。
”兄さんの子供だからつまり姪なんだけどな、こないだまで面倒見てたばあさんが亡くなって、夏休み中ずっと一人もさすがにダメだからっておれんとこに話が来たんだよ”
その話をしてきたオーナーも日本各地に飲食店を経営してあちこち飛び回ってるわけだが、その兄はそれに輪をかけて東奔西走しているらしく、ユリカちゃんをここに預けに来た日ですら5分も座っていなかった。
もう行っちまったのか、と思わずつぶやくと、ユリカちゃんはオーナーに向かって”長かった方だよね”と言い、少し唇を噛んだ。
ちらりと様子を窺うと、ユリカちゃんは両手で顔を挟んでじっとカウンターに目をやっていた。
2-3日前の営業時間後に店の電話が鳴って、首をかしげながら出るとオーナーからだった。
”ユリカが高校受験しないって言い出したらしくて、説き伏せてくれって頼まれたんだよ。おれのために一肌脱いでくれや”
ほんの数年前。
おれも同じようなことを思っていた時期があった。
できるだけ借りを作りたくなくて、リスキーな方法でさっさと社会に出ようとした。
自分が不幸になったほうが、あいつにあいつ自身の間違いを認めさせられるんじゃないか。
そう思って、あえて苦労の多い道を進もうとしたのかも知れねェ。
高校に進まないつもりだと周囲に話すと、同級生がキレて殴りかかって来たことがあった。
そいつは経済的な理由で全日制の高校を諦めて、日中働きながら定時制の高校に進むつもりだったらしい。
贅沢なんだよお前は、と罵られたが、その一件がなかったらおれは今頃もっとろくでもねェ生活をしてただろう。
ユリカちゃんは、あの頃のおれよりずっと賢い。
聡明さでも真面目さでも学力的な意味でも、順当に行けば高校受験だけじゃなく大学受験まで行くんじゃないかってタイプだ。
だから、おそらく。
おれが言いたいことも、わかってくれるはずだ。
例え時間はかかっても。
「…部屋戻る」
ふいっとカウンターを通り抜け、裏口から出ていく背中を見送る。
軽い足音が階段を上り、2階のドアが開いて閉まる音がした。
ここの2階にはワンルームの部屋が二つあって、手前をおれ、奥をユリカちゃんが使っている。
とは言え、ユリカちゃんは寝るとき以外ほとんど部屋を使わない。
日中は近くの図書館で勉強か読書をして、おれが店に降りてからはほとんど店で過ごしている。
たぶん部屋に籠るのは、一人でじっと考え事をしたい時だけ。
ちゃんと鍵は閉めただろうか。
あとで夕食を持って行きがてら言っとかねェと。
どんな酔っ払いが上に上がって行かねェとも限らない。
そういや今日は開店前に業者が見積もりの話をしに来るんだったな。
となるとその分準備は前倒しでしなきゃならねェ。
店に出す料理の下準備は出来てるが、話が長引いても厄介だから夕食は早めに作るか。
ついさっき手入れし終えたばかりの包丁を手に取る。
今日はユリカちゃんの好物と行こうじゃねェか。