季節、
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「なァ」
終業式の後、下駄箱の前で声をかけられた。
「…ちょっと歩かねェか」
「…うん」
2ヶ月くらい前に、私から別れを切り出した。
ゾロは拍子抜けするくらいすんなりとそれを受け入れた。
毎日はあまり変わらなかった。
朝家を出る時間が遅くなったことと、時々来ていた連絡がなくなっただけ。
先月、親の転勤が決まってからの方が、生活は一変した。
学校から最寄りのバス停を通過して、次のバス停まで歩く。
「…わたし、転校することになった」
「あァ、クラスの奴らに聞いた」
「そっか」
沈黙が気まずくて、焦って話題を探した。
「あ、あのさ、このマフラー…返すね」
「…あァ、それか」
「うん、最後に話したとき持って行くの忘れちゃって…」
「いや、いい」
「…え?」
「やる。持っとくのが嫌なら捨てて構わねェ」
あぁ、この人は、いちいち。
私が捨てられないことを知ってるのかな。
それから、特に会話もすることなく次のバス停に着いて、ベンチに腰を下ろす。
沈黙から逃げたかったけど、携帯を開くのもよくない気がした。
ちらりと見上げたゾロは、いつもと変わらない表情で。
…いつもそうだったな。
この人は余裕そうで、私ばっかり好きになって、寂しがって、耐えられなくなって。
本当はこんなにかっこ悪くなりたくなかったな。
でもああいう風にしかできなかった。
「ユリカ」
ぼんやりした考え事が低い声でさえぎられる。
急に、この人の声で名前を呼ばれるのが最後かもしれないと気づいて涙が込み上げた。
「後悔してないか」
意地でも泣かない、と歯を食いしばって、
ローファーに目を落とした。
爪先が汚れている。
去年は、靴が汚れていたことなんてなかった。
そこしか見ていなかったから。
「…うん」
ありがとうって言えるほど大人にはなれなかった。
むきだしの感情をぶつけるほど子供でもなくなった。
初めて一緒にバス停に並んだときとは、反対の感情が生まれていることに自分で驚く。
いつも乗るバスが見えて、無意識にため息をついた。
立ち上がる私を、ゾロはそのままの姿勢で見上げる。
「…乗らないの?」
「あァ。今日は駅前に用がある」
「…、そっか。」
開いたドアのステップに足をかけて、
振り返って、ちゃんと、顔を見て。
「元気でね、ゾロ」
「…あァ。お前もな」
入って右側の、入口から二列目の窓側。
いつもの席に腰を下ろした。
ゾロが立ち上がってこっちを見ている。
ぼやけてしまっていたけれど、真っ直ぐ見返した。
車窓がバス停を追い越していく。
「バス…見分けられるようになったんだね…」
涙声だなんて認めない。
これから先、シロツメクサや街路樹が風に揺れるのを見るたびに、
今年買った浴衣やこの返しそびれたマフラーを見るたびに、きっとゾロを思い出す。
それでたぶん、今とは変わった自分を見つける。
その頃には、この鋭い痛みも忘れてて、
懐かしいなんて思ったりするのかな。
でも、たとえこの恋を忘れても。
この人が変えた私の世界は、きっと元には戻らない。
終業式の後、下駄箱の前で声をかけられた。
「…ちょっと歩かねェか」
「…うん」
2ヶ月くらい前に、私から別れを切り出した。
ゾロは拍子抜けするくらいすんなりとそれを受け入れた。
毎日はあまり変わらなかった。
朝家を出る時間が遅くなったことと、時々来ていた連絡がなくなっただけ。
先月、親の転勤が決まってからの方が、生活は一変した。
学校から最寄りのバス停を通過して、次のバス停まで歩く。
「…わたし、転校することになった」
「あァ、クラスの奴らに聞いた」
「そっか」
沈黙が気まずくて、焦って話題を探した。
「あ、あのさ、このマフラー…返すね」
「…あァ、それか」
「うん、最後に話したとき持って行くの忘れちゃって…」
「いや、いい」
「…え?」
「やる。持っとくのが嫌なら捨てて構わねェ」
あぁ、この人は、いちいち。
私が捨てられないことを知ってるのかな。
それから、特に会話もすることなく次のバス停に着いて、ベンチに腰を下ろす。
沈黙から逃げたかったけど、携帯を開くのもよくない気がした。
ちらりと見上げたゾロは、いつもと変わらない表情で。
…いつもそうだったな。
この人は余裕そうで、私ばっかり好きになって、寂しがって、耐えられなくなって。
本当はこんなにかっこ悪くなりたくなかったな。
でもああいう風にしかできなかった。
「ユリカ」
ぼんやりした考え事が低い声でさえぎられる。
急に、この人の声で名前を呼ばれるのが最後かもしれないと気づいて涙が込み上げた。
「後悔してないか」
意地でも泣かない、と歯を食いしばって、
ローファーに目を落とした。
爪先が汚れている。
去年は、靴が汚れていたことなんてなかった。
そこしか見ていなかったから。
「…うん」
ありがとうって言えるほど大人にはなれなかった。
むきだしの感情をぶつけるほど子供でもなくなった。
初めて一緒にバス停に並んだときとは、反対の感情が生まれていることに自分で驚く。
いつも乗るバスが見えて、無意識にため息をついた。
立ち上がる私を、ゾロはそのままの姿勢で見上げる。
「…乗らないの?」
「あァ。今日は駅前に用がある」
「…、そっか。」
開いたドアのステップに足をかけて、
振り返って、ちゃんと、顔を見て。
「元気でね、ゾロ」
「…あァ。お前もな」
入って右側の、入口から二列目の窓側。
いつもの席に腰を下ろした。
ゾロが立ち上がってこっちを見ている。
ぼやけてしまっていたけれど、真っ直ぐ見返した。
車窓がバス停を追い越していく。
「バス…見分けられるようになったんだね…」
涙声だなんて認めない。
これから先、シロツメクサや街路樹が風に揺れるのを見るたびに、
今年買った浴衣やこの返しそびれたマフラーを見るたびに、きっとゾロを思い出す。
それでたぶん、今とは変わった自分を見つける。
その頃には、この鋭い痛みも忘れてて、
懐かしいなんて思ったりするのかな。
でも、たとえこの恋を忘れても。
この人が変えた私の世界は、きっと元には戻らない。
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