季節、
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モヤモヤを持て余したまま格技室の窓を覗いて見回す。
他の人はまだ来てないみたい。
窓をノックしてから、渡り廊下に向かう。
渡り廊下の窓が開いて緑色の頭が顔を出した。
「…おはよう」
「おう。早えな」
モヤモヤがイライラに変わる。
でも、それを口に出すことはしない。
私が臆病だからだ。
「今日は部活ないんだっけ?」
「あァ。道場に行く」
「…そっか」
…大会が、近いから。
ゾロは期待をかけられているし。
だから。
「がんばってね」
「おう」
「じゃあね」
そう言って背を向けた瞬間、スカートが風に流される。
「ユリカ、」
振り返ったのと同時に何かが飛んできて反射的に掴んだ。
「それ、しとけ」
「…ありがと」
飛んできた紺色のマフラーを首に巻く。
ぐっと胸が詰まった。
ゾロの匂いがする。
だけど、私は。
寒くてもほんの少しの時間でもいいから一緒にいて欲しい。
部活がないなら会ったりしたい。
休みの日に、ちょっとでいいから話がしたい。
それを願うのは贅沢なんだろうか。
*
「ふーん?」
「なに」
「寂しいんだー」
「うん、いや…うん」
「で、そういうのをぶつけてまたイチャイチャしちゃうわけだ」
「ちょっ、何言ってんの」
「照れちゃってー」
しばらく学校以外で会ってない。
会って、というか、見て、というか。
チャイムが鳴って先生が教壇に立った。
教科書を開き、右上の余白に丁寧に花火の絵を描きながら思い返す。
テスト期間直前に付き合い始めて、夏休みの始まりにキスをした。
それから、何回かうちに来て。
チョークが黒板を叩く音に目を挙げる。
”聞いてましたよ”という顔を装う。
「ここの表現ですが、具体的にはー」
具体的には2−3日に1回、剣道部の練習が午前で終わる日にうちに来て、私の部屋でしばらく過ごして。
1回だけゾロの家にも行って。
緊張していてあまり覚えてないけど。
あと、花火大会。
もともと持ってた紺の浴衣は地味かなと思って、新しく白地に水色の花柄のを買ってもらった。
いつもよりもっと無口なゾロに、思い切って浴衣の感想を聞いて。
最低限の言葉だったけど、それでも心臓をぎゅっと掴まれたような気持ちになって。
…それで全部。
それだけ。
繰り返し思い出し過ぎて、段々と細かいところを忘れてきた気がしている。
「…人間は忘れる生き物ですが、こういった和歌では”忘れられない”ことが題材にされる場合が多く、その大半は恋です」
そう。忘れる生き物。
だからこまめに新しい記憶が更新されないと、いつか空っぽになってしまう。
窓の外に目を向ける。
紅葉し始めているその樹は、初めてゾロと話した時には満開の花をつけていたのを思い起こす。
次この樹が満開になるまで、このまま耐えられるかな。
それがものすごく遠く感じてため息をついた。
他の人はまだ来てないみたい。
窓をノックしてから、渡り廊下に向かう。
渡り廊下の窓が開いて緑色の頭が顔を出した。
「…おはよう」
「おう。早えな」
モヤモヤがイライラに変わる。
でも、それを口に出すことはしない。
私が臆病だからだ。
「今日は部活ないんだっけ?」
「あァ。道場に行く」
「…そっか」
…大会が、近いから。
ゾロは期待をかけられているし。
だから。
「がんばってね」
「おう」
「じゃあね」
そう言って背を向けた瞬間、スカートが風に流される。
「ユリカ、」
振り返ったのと同時に何かが飛んできて反射的に掴んだ。
「それ、しとけ」
「…ありがと」
飛んできた紺色のマフラーを首に巻く。
ぐっと胸が詰まった。
ゾロの匂いがする。
だけど、私は。
寒くてもほんの少しの時間でもいいから一緒にいて欲しい。
部活がないなら会ったりしたい。
休みの日に、ちょっとでいいから話がしたい。
それを願うのは贅沢なんだろうか。
*
「ふーん?」
「なに」
「寂しいんだー」
「うん、いや…うん」
「で、そういうのをぶつけてまたイチャイチャしちゃうわけだ」
「ちょっ、何言ってんの」
「照れちゃってー」
しばらく学校以外で会ってない。
会って、というか、見て、というか。
チャイムが鳴って先生が教壇に立った。
教科書を開き、右上の余白に丁寧に花火の絵を描きながら思い返す。
テスト期間直前に付き合い始めて、夏休みの始まりにキスをした。
それから、何回かうちに来て。
チョークが黒板を叩く音に目を挙げる。
”聞いてましたよ”という顔を装う。
「ここの表現ですが、具体的にはー」
具体的には2−3日に1回、剣道部の練習が午前で終わる日にうちに来て、私の部屋でしばらく過ごして。
1回だけゾロの家にも行って。
緊張していてあまり覚えてないけど。
あと、花火大会。
もともと持ってた紺の浴衣は地味かなと思って、新しく白地に水色の花柄のを買ってもらった。
いつもよりもっと無口なゾロに、思い切って浴衣の感想を聞いて。
最低限の言葉だったけど、それでも心臓をぎゅっと掴まれたような気持ちになって。
…それで全部。
それだけ。
繰り返し思い出し過ぎて、段々と細かいところを忘れてきた気がしている。
「…人間は忘れる生き物ですが、こういった和歌では”忘れられない”ことが題材にされる場合が多く、その大半は恋です」
そう。忘れる生き物。
だからこまめに新しい記憶が更新されないと、いつか空っぽになってしまう。
窓の外に目を向ける。
紅葉し始めているその樹は、初めてゾロと話した時には満開の花をつけていたのを思い起こす。
次この樹が満開になるまで、このまま耐えられるかな。
それがものすごく遠く感じてため息をついた。