季節、
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居心地が悪い。
斜め前の席に座ったこの人が体ごと振り返って私を見ているからだ。
他の席はガラガラなのに、どうしてこんなに至近距離に。
「…めずらしいね、この時間のバスに乗ってるの」
「…部活が休みだからな」
「そっか。家で勉強?」
「いや、しねぇ」
テスト期間だというのにこの人の頭の中には勉強ってものはないらしい。
勉強教えようか、ってセリフを思いついて自分で驚いた。
「…なんでそんなに見てるの」
「あ?別に見てなんて」
「見てるじゃん」
変なの。
窓の外に目をやる。
風景と一緒にたくさんの同じ制服が流れていく。
同じ制服を着ているはず、なのに。
いつもこの人だけが目に付く。
そのあまりにめずらしい髪色のせいだと、つい最近まで思っていた。
ーあの人もともとあの髪だし剣道めっちゃ強かったじゃん。
去年から目立ってたよ?ユリカは興味なさそうだったけど。
友達にそう言われてから、なんとなくこの人を直視できなくなってしまった。
なのにこの人は逆で、どんどん近づいてきている気がする。
居心地が悪い。
でもそれは、初めて話した時に感じた居心地の悪さとは違っていた。
なんていうか。
見ないで、と思う。
目が合うと何かが溢れそうになる。
泣くのを堪えるような、そんな感覚。
*
「…なんで着いて来てんの」
「良いだろ別に」
いつも降りるバス停で、降りるはずのないこの人が立ち上がった時には驚いた。
あやうく自分が降りるのを忘れそうになるくらいに。
それを「なに呆けてんだよ」と言われたのは癪に触ったけど。
本来この人の最寄りのバス停はもっとずっと先にあるのだ。
最初に会った時にここに立っていたのは、迷子になって偶然見つけたのがここだっただけに過ぎない。
「どこまで行くの」
「…さァな」
この人にとっては遠回りのはずなのに。
考えるほど奇妙だ。
「もうすぐうち着いちゃうんだけど」
「…」
足音が止まったので、やっと一人になれるのかと息をついた。
「ユリカ」
振り返る。
「好きだ」
「…え?」
「…」
つよく風が吹いて、街路樹がザワっと揺れる。
翻った葉っぱが光に透けて明るい緑に輝いた。
木漏れ日がまだらに影を落とす。
急に、世界が。
「…お前は?」
世界は、こんなに鮮やかだったっけ。
「…わたし、も。」
こんな鮮やかなら、もっと見てみたいって、
らしくないことを思った。
斜め前の席に座ったこの人が体ごと振り返って私を見ているからだ。
他の席はガラガラなのに、どうしてこんなに至近距離に。
「…めずらしいね、この時間のバスに乗ってるの」
「…部活が休みだからな」
「そっか。家で勉強?」
「いや、しねぇ」
テスト期間だというのにこの人の頭の中には勉強ってものはないらしい。
勉強教えようか、ってセリフを思いついて自分で驚いた。
「…なんでそんなに見てるの」
「あ?別に見てなんて」
「見てるじゃん」
変なの。
窓の外に目をやる。
風景と一緒にたくさんの同じ制服が流れていく。
同じ制服を着ているはず、なのに。
いつもこの人だけが目に付く。
そのあまりにめずらしい髪色のせいだと、つい最近まで思っていた。
ーあの人もともとあの髪だし剣道めっちゃ強かったじゃん。
去年から目立ってたよ?ユリカは興味なさそうだったけど。
友達にそう言われてから、なんとなくこの人を直視できなくなってしまった。
なのにこの人は逆で、どんどん近づいてきている気がする。
居心地が悪い。
でもそれは、初めて話した時に感じた居心地の悪さとは違っていた。
なんていうか。
見ないで、と思う。
目が合うと何かが溢れそうになる。
泣くのを堪えるような、そんな感覚。
*
「…なんで着いて来てんの」
「良いだろ別に」
いつも降りるバス停で、降りるはずのないこの人が立ち上がった時には驚いた。
あやうく自分が降りるのを忘れそうになるくらいに。
それを「なに呆けてんだよ」と言われたのは癪に触ったけど。
本来この人の最寄りのバス停はもっとずっと先にあるのだ。
最初に会った時にここに立っていたのは、迷子になって偶然見つけたのがここだっただけに過ぎない。
「どこまで行くの」
「…さァな」
この人にとっては遠回りのはずなのに。
考えるほど奇妙だ。
「もうすぐうち着いちゃうんだけど」
「…」
足音が止まったので、やっと一人になれるのかと息をついた。
「ユリカ」
振り返る。
「好きだ」
「…え?」
「…」
つよく風が吹いて、街路樹がザワっと揺れる。
翻った葉っぱが光に透けて明るい緑に輝いた。
木漏れ日がまだらに影を落とす。
急に、世界が。
「…お前は?」
世界は、こんなに鮮やかだったっけ。
「…わたし、も。」
こんな鮮やかなら、もっと見てみたいって、
らしくないことを思った。