Significance of parting
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「早く大人になりたいから」
頬杖で頬の肉が持ち上がっているのがわかった。
そんな小さなことひとつでも、自分が子供だということを思い知らされてイライラする。
目の前に立っている金髪のその人は、磨いていたグラスから目を離して私と目を合わせる。
「大人かァ…ユリカちゃんは大人になって、何がしたいんだい?」
「1人で生きていきたい」
毎日思っている。
早く大人になって、早く一人で生きていきたい。
「1人で生きる、か」
カタリ、とワイングラスをカウンターに置いて、その人はあごに手を当てた。
ここで”人は一人では生きていけない”とか”必ず誰かに支えられてるんだ”とかいう耳障りのいい誤魔化しをして来ようものなら、この人もつまらない大人と見なしてやる、と決意する。
「ユリカちゃんから見て、おれは大人かい?」
「当たり前でしょ。自分でお金稼いでご飯食べてるもん」
「…なるほどな」
カウンターの奥から椅子を引きずってきて座り、その人も頬杖をついた。
「つまりユリカちゃんにとっては、自分の稼いだお金で生活できれば大人ってことだね?」
「うん」
「それで、早く自分の稼いだお金だけで生活したいから、高校受験しないで中卒で就職するって言ってるんだね?」
「そう」
「そうか。よくわかった」
胸ポケットからスマホを取り出して何か見ていたその人は、思い立ったように私を見た。
「じゃあそんなユリカちゃんに数学の問題だ」
「なに急に」
「いいからいいから」
渡されたのは、この人がお客さんからの注文を取る時に使う伝票だった。
「問題です。おれは一ヶ月に以下の出費をしていますが、それを補うには一体いくら給料があればいいでしょう。
家賃6万2000円、水道光熱費1万円、スマホ代とネット代合わせて1万円、ガソリン代1万円、食費は…まァ3万円ぐらいだけどそれは店の賄いがあるからで、もし賄いがなかったら一日当たり1000円増えるって考えたら、まず食費はいくらだ?」
「6万」
「おお、おれそんなに食費使ってんだな…まあ勉強のためにレストランとか行くからな」
「…」
「あとそれ以外に服買ったり日用品買ったりで、どんなに切り詰めても2万円ぐらいかかる」
「17万2000円」
「じゃあここで情報の問題です。中卒の初めての給料、つまり初任給の平均はいくらでしょう。スマホ使っていいよ」
そのまま”中卒””しょにんきゅう”と打ち込んで、一番上に出てきたサイトを開く。
「…15万…」
「お、俺が見たのと同じサイトだな」
「…でも、食費節約すれば、」
「おっと、ひとつ計算し忘れてた。働く人には税金ってのがかかってな、だいたいさっきの給料から2割ぐらい引かれる。そしたら手元に残るのは?」
「…12万」
ムリだ。
「貯金を切り崩しながら生活するって人もいるけど、それにはいつか終わりが来る。食費や水道光熱費を節約しすぎると体調を崩して、それより高い医療費がかかることもある。」
「…じゃあ実際いくらもらってるの」
「20万ちょっとかな」
いつもは包丁を握ったりお皿を洗ったりしている手が、膝の上で組まれるのをぼんやりと眺めた。
「その20万も、おれが高校を卒業して、調理師の学校に入って免許を取ったから保障される給料だ。これが何の資格もないただの21歳だったら、もっと給料は低い」
「…」
「もし月12万円で生きてけるとしたら、もっと物価の安い所に住んでるか、実家暮らしか親からの仕送りがある人だろうな。…でも、それはユリカちゃんの望む生活じゃないんだろ」
「…」
頬杖で頬の肉が持ち上がっているのがわかった。
そんな小さなことひとつでも、自分が子供だということを思い知らされてイライラする。
目の前に立っている金髪のその人は、磨いていたグラスから目を離して私と目を合わせる。
「大人かァ…ユリカちゃんは大人になって、何がしたいんだい?」
「1人で生きていきたい」
毎日思っている。
早く大人になって、早く一人で生きていきたい。
「1人で生きる、か」
カタリ、とワイングラスをカウンターに置いて、その人はあごに手を当てた。
ここで”人は一人では生きていけない”とか”必ず誰かに支えられてるんだ”とかいう耳障りのいい誤魔化しをして来ようものなら、この人もつまらない大人と見なしてやる、と決意する。
「ユリカちゃんから見て、おれは大人かい?」
「当たり前でしょ。自分でお金稼いでご飯食べてるもん」
「…なるほどな」
カウンターの奥から椅子を引きずってきて座り、その人も頬杖をついた。
「つまりユリカちゃんにとっては、自分の稼いだお金で生活できれば大人ってことだね?」
「うん」
「それで、早く自分の稼いだお金だけで生活したいから、高校受験しないで中卒で就職するって言ってるんだね?」
「そう」
「そうか。よくわかった」
胸ポケットからスマホを取り出して何か見ていたその人は、思い立ったように私を見た。
「じゃあそんなユリカちゃんに数学の問題だ」
「なに急に」
「いいからいいから」
渡されたのは、この人がお客さんからの注文を取る時に使う伝票だった。
「問題です。おれは一ヶ月に以下の出費をしていますが、それを補うには一体いくら給料があればいいでしょう。
家賃6万2000円、水道光熱費1万円、スマホ代とネット代合わせて1万円、ガソリン代1万円、食費は…まァ3万円ぐらいだけどそれは店の賄いがあるからで、もし賄いがなかったら一日当たり1000円増えるって考えたら、まず食費はいくらだ?」
「6万」
「おお、おれそんなに食費使ってんだな…まあ勉強のためにレストランとか行くからな」
「…」
「あとそれ以外に服買ったり日用品買ったりで、どんなに切り詰めても2万円ぐらいかかる」
「17万2000円」
「じゃあここで情報の問題です。中卒の初めての給料、つまり初任給の平均はいくらでしょう。スマホ使っていいよ」
そのまま”中卒””しょにんきゅう”と打ち込んで、一番上に出てきたサイトを開く。
「…15万…」
「お、俺が見たのと同じサイトだな」
「…でも、食費節約すれば、」
「おっと、ひとつ計算し忘れてた。働く人には税金ってのがかかってな、だいたいさっきの給料から2割ぐらい引かれる。そしたら手元に残るのは?」
「…12万」
ムリだ。
「貯金を切り崩しながら生活するって人もいるけど、それにはいつか終わりが来る。食費や水道光熱費を節約しすぎると体調を崩して、それより高い医療費がかかることもある。」
「…じゃあ実際いくらもらってるの」
「20万ちょっとかな」
いつもは包丁を握ったりお皿を洗ったりしている手が、膝の上で組まれるのをぼんやりと眺めた。
「その20万も、おれが高校を卒業して、調理師の学校に入って免許を取ったから保障される給料だ。これが何の資格もないただの21歳だったら、もっと給料は低い」
「…」
「もし月12万円で生きてけるとしたら、もっと物価の安い所に住んでるか、実家暮らしか親からの仕送りがある人だろうな。…でも、それはユリカちゃんの望む生活じゃないんだろ」
「…」
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