初雪のはなし
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目が回る。
床に寝ているはずなのに頭が地面に落ちていくように感じる。
不快感を和らげたくて横を向いた。
ひたり、となにかが顔に当たる。
それは人の手のようだった。
その手は私の頬を包んで冷たさを伝えてくる。
心地良さに少し落ち着き、再度眠りの中へ吸い込まれて行った。
*
ようやく目を開けた時、私は自分が何者だったか思い出せなかった。
目に映った人を見て、ぼんやりと像を結ぶその人を思い出そうとした。
とてもお優しい方だ。
お世話になったはず。
たまにしかお会いできないけれど、会うたびに安心した。
お名前は、
「…トラ、ファルガー、せんせ」
「…あァ、目覚めたか」
「わたし…」
「7日間、眠っていた」
体を起こそうと首に力を入れるも、体がそれについてこない。
「無理をするな。まだ体が起こせるほどには回復していない」
「…はい…」
抱き起こされて先生の体に立てかけられるようにして座る。
「薬湯だ。飲めるか」
「…はい」
口に苦い薬の味が広がる。
ようやく飲み下して一息ついた。
「このお薬…懐かしいです」
「懐かしいか?」
「半月前までは飲んでおりましたが…この半月は違う味でしたので…」
先生が息を呑まれた気がした。
この半月を思い起こして、自分が初雪という遊女であったことを思い出す。
”初雪!あんた、もうくたばるのかい!!”
”ずいぶんと顔色が良くなったじゃないか。この調子なら年明けには店に出せるかもしれないね”
「わたくし…死ななかったのですね…」
「…」
「助けていただき、ありがとうございます」
「…例には及ばない。お前は俺の患者だ」
「それでも、先生には感謝しております」
女将さんがお待ちだろう。
「私、帰らなくては、」
「お前の年季は明けた」
「…え?」
「これを」
先生が私の前に掲げた紙には、楼主様と女将さんの連名で、私の年季が明けたことが証明してあった。
「お前の身柄を引き受けるのに必要だった」
「…それは…」
年季が、明けた…
「お前は鳥籠の外で自由に生きていい」
自由?
「…っ、」
「どうした、気分が悪いか」
「…違います」
まだ揺れる頭をゆっくりと回して先生を視界に入れる。
涙があふれて止まらない。
「わたくし、自分のことなのに知りませんでした。本当はこんなに自由になりたかったのですね」
「…そうか」
病に侵された身だけれど、それでも。
「本当に、ありがとうございます、トラファルガー先生」
床に寝ているはずなのに頭が地面に落ちていくように感じる。
不快感を和らげたくて横を向いた。
ひたり、となにかが顔に当たる。
それは人の手のようだった。
その手は私の頬を包んで冷たさを伝えてくる。
心地良さに少し落ち着き、再度眠りの中へ吸い込まれて行った。
*
ようやく目を開けた時、私は自分が何者だったか思い出せなかった。
目に映った人を見て、ぼんやりと像を結ぶその人を思い出そうとした。
とてもお優しい方だ。
お世話になったはず。
たまにしかお会いできないけれど、会うたびに安心した。
お名前は、
「…トラ、ファルガー、せんせ」
「…あァ、目覚めたか」
「わたし…」
「7日間、眠っていた」
体を起こそうと首に力を入れるも、体がそれについてこない。
「無理をするな。まだ体が起こせるほどには回復していない」
「…はい…」
抱き起こされて先生の体に立てかけられるようにして座る。
「薬湯だ。飲めるか」
「…はい」
口に苦い薬の味が広がる。
ようやく飲み下して一息ついた。
「このお薬…懐かしいです」
「懐かしいか?」
「半月前までは飲んでおりましたが…この半月は違う味でしたので…」
先生が息を呑まれた気がした。
この半月を思い起こして、自分が初雪という遊女であったことを思い出す。
”初雪!あんた、もうくたばるのかい!!”
”ずいぶんと顔色が良くなったじゃないか。この調子なら年明けには店に出せるかもしれないね”
「わたくし…死ななかったのですね…」
「…」
「助けていただき、ありがとうございます」
「…例には及ばない。お前は俺の患者だ」
「それでも、先生には感謝しております」
女将さんがお待ちだろう。
「私、帰らなくては、」
「お前の年季は明けた」
「…え?」
「これを」
先生が私の前に掲げた紙には、楼主様と女将さんの連名で、私の年季が明けたことが証明してあった。
「お前の身柄を引き受けるのに必要だった」
「…それは…」
年季が、明けた…
「お前は鳥籠の外で自由に生きていい」
自由?
「…っ、」
「どうした、気分が悪いか」
「…違います」
まだ揺れる頭をゆっくりと回して先生を視界に入れる。
涙があふれて止まらない。
「わたくし、自分のことなのに知りませんでした。本当はこんなに自由になりたかったのですね」
「…そうか」
病に侵された身だけれど、それでも。
「本当に、ありがとうございます、トラファルガー先生」