少女の私が遊び回っている。

きっとこれは夢だ。
まだ遊女になる前の、何も知らなかった私。
重い体を引きずって旦那様を見送る朝を、痛む局部に鞭打つように男性を迎える夜を、白粉で煙る昼見世小屋を、まだ見たことも無い私。

第三者視点で花と戯れる自分を見ながらぼんやりと思う。





遊女にとっての浮世は、足りない眠りと空腹、そして抜けることのない疲れとの闘いだ。

へとへとの体の上に覆い被さってくる旦那様方になんとかお相手して眠りに就く時、いつもこのような夢を見る。
知ってしまった自分を嘆く気持ちがこの夢を見せるのか。

旦那様の身じろぎで目覚める瞬間、途方もない疲労感と共に私は祈るような気持ちで目を開けるのだ。
せめて、夢の中のあなたはそのままでいて。
もう浮世には居なくなってしまった私を覚えていて、と。










「初雪！あんた、もうくたばるのかい！！」





私を夢から引き上げたのは女将さんの声だった。
切羽詰まった声が霞がかかったように朧気に響く。

「ったく、聞こえちゃいない。先生の言った通りだよ。こないだ元気になったと思ったのは最後の一閃だったんだねェ。期待させといてまったく、」

目を開けようと思うのだけれど、瞼が重くて動かない。

「いいかい、あんたもう死ぬんだそうだよ。仏になったら好きにしてくださいってお医者の先生に誓約してたんだってね、もの好きなこった。まァ、あたしとしても投げ込みに行く手間が省けるからいいってもんさ。これからお医者の先生が来てあんたを連れてくそうだよ。せいぜい生きたまま切り刻まれないように祈っといてやるよ」

襖が閉まる音がする。
今出て行ったのは楼主さまだろうか。

頭に手が置かれる。
女将さんの手は思ったより温かかった。

「もうちょっと元気で働いてくれると思ったけどねェ、…惜しいことしたよ。でもまァ、あの世へ行けばここよりは楽できるはずさ」

その言葉を最後に私の意識は闇に沈んだ。