初雪のはなし
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先生とペンギンさんが往診からお戻りになるのが生垣の外に見えて、お出迎えの準備をしに玄関先へ出ようとした時のことである。
「あの…!こちらに、ハルという女性がいませんか…!?」
若いお嬢さんの声がした。
「アンタは?」
「…私は…」
「どこの誰とも知れぬ者に、応える義理はない」
少し間があって、先生とペンギンさんの足音に被さるように細かい足音が聞こえた。
「私は、ハルの妹のミツです!!」
聞き覚えのあるその声に、頭を殴られたような衝撃が襲った。
*
「母上様からは姉上様は奉公に出られたと聞いておりましたが…」
「…」
「どうしてこのような立派なお屋敷に居られるのですか?」
何を話せばいいのか考えあぐねていると、痺れを切らしたように妹が声を上げた。
「母上様はいつも姉上様のおかげで今がある、ミツは幸せ者ですよ、と仰っていました。
けれど、ミツは幸せではありませんでした。
母上様と身を寄せたお屋敷での肩身は狭く、穀潰しのような扱いを受けておりましたし、着物もすべてお古のもので、まともに仕立てて頂いたものなどありません。
それでも、ミツは姉上様に比べれば幸せなんだろうと思っておりました。
今日お会いするまでは」
キッ、と目付きが変わる。
おっとりしている私と違って、この子は小さい頃から気が強かった。
「…どういう意味ですか」
「ミツはお屋敷で小間使いのようにこき使われております。
毎日毎日くたくたになるまで働き、お家の体裁を守るためのお習い事に連れ回されて…先日縁談が決まったと言われました。
お相手は母上様と同じ年頃の御家人で、既に妻が2人おられます。
そんな家に行ったところで受ける扱いは知れております」
「…」
「…それなのに姉上様は、こんなご立派なお屋敷で素敵なお着物に身を包み、そんなにお綺麗になられて、なにより…あんなに素敵な方に見出されて…!!」
私はおっとりしていると言われる。
けれど、
ーパァン!
「…っ、姉上様?」
「恥を知りなさい、ミツ」
誇りをかける時だけ、私は人が変わったようになってしまう。
右手がジンジンと疼いた。
人に手を上げたのは初めてだった。
「あなたは、武家の娘ではないのですか?
好きでもない男の元に嫁ぐなど童のうちから理解していましたよね?
良いではないですか。相手は一人しかいないのですから」
「…姉上様、」
「来る日も来る日も何人もの男性に弄ばれ、痛む局部と空腹に泣きながら、男性が汚した部屋の床を拭く日々の方がいいですか?」
「…え…」
「己の不幸を嘆くことは容易ですよね、嘆いて居れば前に進まなくて済みますから。
でも私はあなたが羨ましい。
前に進まなくても許されて、こうやって自由に行きたい場所に行けて、まだ何も知らずこれから何にでもなれるあなたが。
なにより、」
席を立った。
頭を高く上げる。
もはや私の中にしか存在しない誇りをなぞる。
「武士の娘を名乗れるあなたが」
「あの…!こちらに、ハルという女性がいませんか…!?」
若いお嬢さんの声がした。
「アンタは?」
「…私は…」
「どこの誰とも知れぬ者に、応える義理はない」
少し間があって、先生とペンギンさんの足音に被さるように細かい足音が聞こえた。
「私は、ハルの妹のミツです!!」
聞き覚えのあるその声に、頭を殴られたような衝撃が襲った。
*
「母上様からは姉上様は奉公に出られたと聞いておりましたが…」
「…」
「どうしてこのような立派なお屋敷に居られるのですか?」
何を話せばいいのか考えあぐねていると、痺れを切らしたように妹が声を上げた。
「母上様はいつも姉上様のおかげで今がある、ミツは幸せ者ですよ、と仰っていました。
けれど、ミツは幸せではありませんでした。
母上様と身を寄せたお屋敷での肩身は狭く、穀潰しのような扱いを受けておりましたし、着物もすべてお古のもので、まともに仕立てて頂いたものなどありません。
それでも、ミツは姉上様に比べれば幸せなんだろうと思っておりました。
今日お会いするまでは」
キッ、と目付きが変わる。
おっとりしている私と違って、この子は小さい頃から気が強かった。
「…どういう意味ですか」
「ミツはお屋敷で小間使いのようにこき使われております。
毎日毎日くたくたになるまで働き、お家の体裁を守るためのお習い事に連れ回されて…先日縁談が決まったと言われました。
お相手は母上様と同じ年頃の御家人で、既に妻が2人おられます。
そんな家に行ったところで受ける扱いは知れております」
「…」
「…それなのに姉上様は、こんなご立派なお屋敷で素敵なお着物に身を包み、そんなにお綺麗になられて、なにより…あんなに素敵な方に見出されて…!!」
私はおっとりしていると言われる。
けれど、
ーパァン!
「…っ、姉上様?」
「恥を知りなさい、ミツ」
誇りをかける時だけ、私は人が変わったようになってしまう。
右手がジンジンと疼いた。
人に手を上げたのは初めてだった。
「あなたは、武家の娘ではないのですか?
好きでもない男の元に嫁ぐなど童のうちから理解していましたよね?
良いではないですか。相手は一人しかいないのですから」
「…姉上様、」
「来る日も来る日も何人もの男性に弄ばれ、痛む局部と空腹に泣きながら、男性が汚した部屋の床を拭く日々の方がいいですか?」
「…え…」
「己の不幸を嘆くことは容易ですよね、嘆いて居れば前に進まなくて済みますから。
でも私はあなたが羨ましい。
前に進まなくても許されて、こうやって自由に行きたい場所に行けて、まだ何も知らずこれから何にでもなれるあなたが。
なにより、」
席を立った。
頭を高く上げる。
もはや私の中にしか存在しない誇りをなぞる。
「武士の娘を名乗れるあなたが」