初雪のはなし
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どこからが手鞠歌が流れてくる。
それが不自然に途切れ、咳の音。
音の出所を見遣る。
「初雪さん、養生しておくんなんし」
「そうしておくんなんし、あちきから女将さんに伝えなんす」
「ですが、」
「初雪さんはすぐ花魁になれるっち、女将さんもおっせえした。昼見世まで無理しなんすな」
咳をしていた遊女が奥へ押し込まれる。
「はぁ、行きなんしたなぁ」
「初雪さんに昼見世出られちゃ、わちきらに勝ち目はありんせん」
「それにあの咳、結核じゃありんせんかと心配で」
「こないだ血を吐いたと聞きなんした」
その遊女を隣の遊女がつつき、全員がこぞってこちらを振り返る。
「あらぁ素敵なお侍さん」
「こちらへは遊びにいらしたんでありんすか?」
それが年が明けてすぐの頃だっただろうか。
花街の楼主に依頼され、薬湯を調合しに行った帰り道のこと。
特徴的な咳が耳につき、2度目に通り掛かった時にも無意識に探した。
その遊女は同じように昼見世に出ていて、今度はしっかりと顔を見る。
雷に打たれたと思った。
今まで目にしたどの女より美しかった。
いっそ後光が差して見えるほど。
それが、あいつとの出会いだった。
✳
ペンギンに調べさせ、あの遊女が初雪という源氏名で通っていること、その美しさから花魁となれるほど人気が高いものの、体が弱いため毎日店に出ることが出来ず、安く買い叩かれている事を知った。
腸が煮えくりかえるような気分だった。
あれほど美しい女が、金で買われている。
おれならそんな真似はしねぇ。
ただ美しくあれるように、体調と身なりを整え教養を身につけさせ、何不自由なく暮らさせるのに。
どうしようもなく欲しくなった。
手に入れなければ気が済まないと思うほどに。
自分の信念を曲げてでも、と思うほどに。
それで、あいつの遊廓を告発させた。
元々咳の出やすい体質なのか、結核と見せかけることは容易だった。
それは医者としての矜持を曲げるものだったが、そんなことは大した事ではなかった。
それが不自然に途切れ、咳の音。
音の出所を見遣る。
「初雪さん、養生しておくんなんし」
「そうしておくんなんし、あちきから女将さんに伝えなんす」
「ですが、」
「初雪さんはすぐ花魁になれるっち、女将さんもおっせえした。昼見世まで無理しなんすな」
咳をしていた遊女が奥へ押し込まれる。
「はぁ、行きなんしたなぁ」
「初雪さんに昼見世出られちゃ、わちきらに勝ち目はありんせん」
「それにあの咳、結核じゃありんせんかと心配で」
「こないだ血を吐いたと聞きなんした」
その遊女を隣の遊女がつつき、全員がこぞってこちらを振り返る。
「あらぁ素敵なお侍さん」
「こちらへは遊びにいらしたんでありんすか?」
それが年が明けてすぐの頃だっただろうか。
花街の楼主に依頼され、薬湯を調合しに行った帰り道のこと。
特徴的な咳が耳につき、2度目に通り掛かった時にも無意識に探した。
その遊女は同じように昼見世に出ていて、今度はしっかりと顔を見る。
雷に打たれたと思った。
今まで目にしたどの女より美しかった。
いっそ後光が差して見えるほど。
それが、あいつとの出会いだった。
✳
ペンギンに調べさせ、あの遊女が初雪という源氏名で通っていること、その美しさから花魁となれるほど人気が高いものの、体が弱いため毎日店に出ることが出来ず、安く買い叩かれている事を知った。
腸が煮えくりかえるような気分だった。
あれほど美しい女が、金で買われている。
おれならそんな真似はしねぇ。
ただ美しくあれるように、体調と身なりを整え教養を身につけさせ、何不自由なく暮らさせるのに。
どうしようもなく欲しくなった。
手に入れなければ気が済まないと思うほどに。
自分の信念を曲げてでも、と思うほどに。
それで、あいつの遊廓を告発させた。
元々咳の出やすい体質なのか、結核と見せかけることは容易だった。
それは医者としての矜持を曲げるものだったが、そんなことは大した事ではなかった。