店の二階に寝泊まりして、住み込みで働くってこともできるが、そうなると朝の４時の仕入れから始まって、１日中同じメンツと顔つき合わせ続けることになる。
さすがにそれは避けてェってのと、できれば天使たちに囲まれて過ごしてェって思って探したのがここだった。
シェアハウスだと、活動時間が変則なオレは周りに迷惑をかけちまうから、独立した個室と共有スペースのあるこの物件は理想だった。

その理想の環境で、オレは理想の天使に出会った。
名前はマナちゃん。
いつ見てもかわいい。ホラー映画に怖がっていてもかわいい。
そして何より、料理がうまい。

「サンジくんの口に合うか、わからないんだけど・・・」
「今までマナちゃんの作ったものがおいしくなかったことなんてないさ！！」
「ふふ、ありがとう」

困った顔で笑う彼女は、たぶんオレの言葉を信じてない。
でも本当のことなんだ。
なんていうかな、料理人の作る料理とは、美味しさの質・・・というか、ベクトルが違う。

料理人の料理は、「ハレの日」を祝福する料理だ。
一年に一度、一生に一度の日を彩るためのもの。
マナちゃんの料理は違う。「ケの日」を、日常を彩る料理。
人生を受け入れて、いたわる料理。
例えば、泣きながら食べるシチューとか、そういうもの。
愛情がなければ、成り立たないもの。

口に入れただけで、疲れがほどけるような。

「久しぶりに食べたポトフがこんなにおいしくて、しかもマナちゃんの手料理だなんて、オレは幸せ者だなぁ・・・」
「サンジくんは大げさねぇ」

にっこり笑って彼女は言う。

「いつもお仕事お疲れさま」

あァ、もう、家でこんなかわいい子が待ってるんなら、きっとオレは世界一の幸せ者だろうなァ・・・

「ホント、幸せ者だ」
「だからー、大げさだってばー」

今はまだ、君に届かなくてもいい。