早朝のスペースへ向かう。
廊下から見えるソファに座り込む人影。
ゾロがソファにあぐらをかいて腕を組んで眠っている。
器用な寝相で感心した。

パッと目があく。

「…！…おはよう」
「…おぉ」
「ここで寝てたの？」
「ん、あァ、まぁな」
「…たしぎさんは？」
「寝てんじゃねぇのか」
「そっか」

ソファにカバンを置いて、エプロンを付ける。
まだ、昨日感じた恥ずかしさが鉛のように、胸の底に溜まって消えない。
これ以上、自分の自意識過剰を思い知るのはごめんだ。
手さえ動かしていれば、淡々と時は過ぎていく。

「…なァ」
「…ん？」
「どうだった、久しぶりの実家は」
「うーん、そんなに長居したわけじゃないからなんとも」
「…そうか」

シャンクスがまだ兄だったよ。
そう言ったところで、ゾロにとっては本来あまり関係のないことなのだ。

「ゾロはなんでここで寝てたの？」
「…いや、」
「ん？」
「…気づいたら寝ちまってた」
「…そっか」

普段は同じ量の会話でも居心地がいいって感じるのに、今日の居心地はその逆だ。

「…ゾロは、」

ゾロの目線がこちらを向く。

「…優しい人だね」
「…あ？」
「ふふ、」

全部、そうだ。
優しい人だから、酔ってる人を放っておけない。
優しい人だから、頭を撫でてくれる。
優しい人だから、傷つけられそうなときに助けてくれる。

私のことを、好きなわけではない。

スマホが鳴って、ゾロが立ち上がる。
きっともうすぐ、あの女の人が起きてくる。
「外向きの顔」を少しずつ身にまといながら、朝を始める。