目を合わせるのが怖い。
手元のグラスに視線を落とす。

「…いつか」

拍子抜けするほど柔らかいシャンクスの声が届く。
その声につられて視線を上げる。
穏やかな視線がこちらを向いていた。

「俺の存在がお前の負担や邪魔になった時に、距離を置きやすいようにだよ」

「…え？」

「お前と初めて会ったのが、まだ首も座ってない頃だった」

なに、を？

「もうな、一目惚れよ。」

豪快にシャンクスは笑う。

「この世にこんなかわいい生き物が居んのかってな。で、もう次の瞬間決めてた。
こいつに振りかかる嫌なことや危ないこと全部オレが排除しようって」

不意に、小学生の時に私をいじめた男子をシャンクスが気絶させたことを思い出す。

「お前が小さいうちはまだいい。
でも、お前も年頃になって恋とかすんだろ、俺にはそいつら全員危険因子に見えるわけよ」

…そういえば高校生の時にいいなと思ってた男子が、
ある日から急によそよそしくなったことがあった。もしかして。

「で、ある時ベックマンに言われたんだ。
俺が排除する男の中に、マナを幸せにする男が居るかもしれないだろって。
例えそうじゃなくても、自分で相手を選んで傷つく権利がマナにもあるはずだ、ってな」

傷つく権利。
ベックマンらしい。

「まァ、思ったより男の趣味も悪くなかったんだけど」
「…そうですか」
「それでも俺には全員ぶっ殺したい対象なわけよ」
「…」

物騒だけどほんとにやりかねない。

「だから、手を出さないために、兄っていう大義名分を無くそうと思った」