「マナさんって方いらっしゃる？」
凛とした声が響く。
振り返ると長身の美人がキツイ目線でフロアを見渡していた。

人通りの少ない廊下に呼び出される。
「あなた、トラファルガー先生のなに？」
「…特に、なんでもないですよ」
「じゃあ言葉を変えるわ、あなたは彼に対してなにができるの？」
「…なに、とおっしゃいますと」
「ドクター独特のプレッシャーを分かち合えるわけでもない、
お互いに知識の研鑽ができるわけでもない、
仕事上のパートナーになれるわけでもない」

逆に、あなたはご自身がそうできるってお思いなんですね、と心の中でつぶやく。

「そんな人が、どうして胸を張ってあの人と関わっているのか不思議でしょうがなくて」

確かに、それはそうだ。
自信満々な表情で、さあ反論してみなさいよと言いたそうに
こちらに強い視線を送る女医さんを見つめる。

「どんな関わりがあると思われていらっしゃるのかはわかりませんが、」

そうか。
こういうことがあるとしても、それでもローの力になりたいと思うなら、
きっと私はローを選ぶべきなんだ。
自分の中に一つ確かな価値基準を見つけて、視界がすっきりした。

「…そう思われるなら、どうしてわざわざそれを、私に言いにいらっしゃったんですか？」

女医さんが一瞬たじろぐ。
アドバンテージ、わたし。

「遥々ここへ来て私にそれを教えていただくより、
トラファルガー先生ご本人に、先ほどのお話を直接プレゼンされた方が有効かと思います」

今にも逆上しそうな顔でこちらを見下ろす女医さんに、笑顔を一つプレゼントして。

「私は何も持っていませんし、それは自分が一番よくわかっています。
むしろ、何かあるなら、教えていただきたいくらいです。
…では、失礼します」