ローにお弁当を強奪された後、売店でサンドイッチを買ってお昼を済ませて、
研究室で午後の分の仕事をしていたら、内線が鳴って同僚の女性が出た。

「あ、久しぶりー、…うん。髪の長い…うん。……え？
うーん、あ、でもそんなはずないよ、他にいるもん。
うん、私会ったことあるし。…うん、はーい、じゃあまたねー」

電話を切った後、同僚の女性が小声で話しかけてきた。

「マナさん、心臓外科のトラファルガー先生と知り合いですか？」
「え？」
「いや、いま病棟ナースしてる同期から電話があって、
なんかマナさんがトラファルガー先生の彼女じゃないかって聞かれたんですけど、
マナさんには別に彼氏さんいるってちゃんと伝えておきましたから！」
「あ、そうですか…ありがとうございます」

病棟ナースさん、諜報能力高すぎるでしょう。
きっとさっきの一部始終を見られてて、探しに来たんだろう。こわい。


顕微鏡を覗きながらロボットアームを操作する。


もし、ローとなにかあったら、こういう話は日常茶飯事なんだろう。
背が高くてイケメンで医者。
口が悪かろうが冷たかろうが部屋が汚かろうがモテないはずがない。
むしろそれらを長所としてカウントする女子がいそうなくらい、持ってるスペックが抜群だ。


正直、大変だろうな、ローの彼女とか妻になる人は。


もしそんな人が現れれば、きっとうちの物件を出ていくだろう。新婚夫婦で住むにはあまりに狭い間取り。


…そうなんだよな。



今こんなに日常の近くにいる人が、いつかここを出て、違うところで違う生活を始める。

ローだけじゃなく、全員が、いつかは。


想像すると、ぞっとするような寂しさが襲ってくる気がして、
出来るだけ考えないように、手元の操作に集中した。