過去編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目的地が決まらないまま全力で自転車を漕ぐ。
気が付くと一番よく行く目的地、勤務先の大学病院に到着していた。
…落ち着くには、いいかもしれない。ちょうど調べたいこともあったし、図書館に行こう。
勤務先には24時間利用可能な図書館がある。
学生さんの試験期間には大賑わいになるものの、今みたいな閑散期は本当に静かで居心地がいい。
最新のジャーナルを手に取り、目を通しているうちに、少しずつ気持ちが整理されていく。
…キス、されてしまった。
というか、させる隙を、与えてしまった。
こうなると、もう元には戻れない。
次の学会の日程を確認して手帳に書き込む。
…あの時、お兄ちゃんだと思ってるって、言わなくてよかった。
言ったらきっと、傷つけていただろう。
まあ、こうやって飛び出してきた時点で、十分傷つけてはいるけれど。
掲載の文献に目を通していると、興味を惹かれる引用文献を見つけた。
ジャーナルを本棚に戻し、今度は引用文献を探しに行く。
図書館の最上階は、文献集が電動書架で管理されていて、他の階よりも重厚な空間だ。
電動書架を移動させて、必要な文献を探すものの、運悪く最上段に位置しているようだった。
足台を探しに行こうとすると
「マナ?」
「…ロー」
「珍しいな、こんなところで」
「うん、ちょっと調べたいことがあって」
足台を探す私の視線に気づいたらしいローが「どれだ?」と聞いてくるので、書架の真下に移動して最上段を指さす。
「あの緑色の背表紙のやつなんだけど」
「あれか」
書架の間隔は狭い。
私の横に立つローが手を伸ばして文献を取ろうとすれば、通路から見て私の体はローの体の影にすっぽりと納まるのだろう。
「ほら」
「ありがと。背が高いっていいね」
「…」
ローが、何かを探るように私を見る。ざわついた内面を見透かされているようで、居心地が悪い。
お礼を言って、その場を離れようとしたけれど。
「来い」
手を引いて書架の奥へと連れ込まれる。
書架と窓の間には2m程度の隙間があって、たまにここで仮眠をとる学生もいると聞く。
通路からは、完全に死角。
「…ロー?どうしたの?」
「それはこっちのセリフだ」
振り返ったローは、痛みをこらえるような顔をしていた。
「何があった?」
え。
なにもないよ。
ちょっと、びっくりしただけ。
ちょっと、昔のこと思い出しただけ。
それで、知っていたけど気づかないふりをしてきたことが、目の前に差し出されただけ。
ただ、それだけ。
なのに。
「…なにもない」
どうして私の言葉はこんなに嘘のように響くんだろう。
ひとつ重めの溜息が落とされる。
「なにもないなら、そんな顔にはならないはずだ」
ふわり、と抱きしめられた。
気が付くと一番よく行く目的地、勤務先の大学病院に到着していた。
…落ち着くには、いいかもしれない。ちょうど調べたいこともあったし、図書館に行こう。
勤務先には24時間利用可能な図書館がある。
学生さんの試験期間には大賑わいになるものの、今みたいな閑散期は本当に静かで居心地がいい。
最新のジャーナルを手に取り、目を通しているうちに、少しずつ気持ちが整理されていく。
…キス、されてしまった。
というか、させる隙を、与えてしまった。
こうなると、もう元には戻れない。
次の学会の日程を確認して手帳に書き込む。
…あの時、お兄ちゃんだと思ってるって、言わなくてよかった。
言ったらきっと、傷つけていただろう。
まあ、こうやって飛び出してきた時点で、十分傷つけてはいるけれど。
掲載の文献に目を通していると、興味を惹かれる引用文献を見つけた。
ジャーナルを本棚に戻し、今度は引用文献を探しに行く。
図書館の最上階は、文献集が電動書架で管理されていて、他の階よりも重厚な空間だ。
電動書架を移動させて、必要な文献を探すものの、運悪く最上段に位置しているようだった。
足台を探しに行こうとすると
「マナ?」
「…ロー」
「珍しいな、こんなところで」
「うん、ちょっと調べたいことがあって」
足台を探す私の視線に気づいたらしいローが「どれだ?」と聞いてくるので、書架の真下に移動して最上段を指さす。
「あの緑色の背表紙のやつなんだけど」
「あれか」
書架の間隔は狭い。
私の横に立つローが手を伸ばして文献を取ろうとすれば、通路から見て私の体はローの体の影にすっぽりと納まるのだろう。
「ほら」
「ありがと。背が高いっていいね」
「…」
ローが、何かを探るように私を見る。ざわついた内面を見透かされているようで、居心地が悪い。
お礼を言って、その場を離れようとしたけれど。
「来い」
手を引いて書架の奥へと連れ込まれる。
書架と窓の間には2m程度の隙間があって、たまにここで仮眠をとる学生もいると聞く。
通路からは、完全に死角。
「…ロー?どうしたの?」
「それはこっちのセリフだ」
振り返ったローは、痛みをこらえるような顔をしていた。
「何があった?」
え。
なにもないよ。
ちょっと、びっくりしただけ。
ちょっと、昔のこと思い出しただけ。
それで、知っていたけど気づかないふりをしてきたことが、目の前に差し出されただけ。
ただ、それだけ。
なのに。
「…なにもない」
どうして私の言葉はこんなに嘘のように響くんだろう。
ひとつ重めの溜息が落とされる。
「なにもないなら、そんな顔にはならないはずだ」
ふわり、と抱きしめられた。